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放課後にふらりとテニスコートに向かった。
関東大会が目前に迫った今、テニス部は練習に力を入れている。
それに比例して、フェンス周りの人達の応援にも力が入ってるようだけど。
最近の定位置になりつつある隠れた見学スポットから、中の練習風景を見る。
真ん中と奥のコートでレギュラーが試合をしている。
「…何やってんの、あの二人」
ジャッカル・丸井ペアと試合をしている仁王と柳生を見て、思わず呟く。
違和感があると思ったけど、違和感があって当然だ。
そのままジッと試合をみていたら、ギリギリで仁王・柳生ペアが勝ったらしい。
タオル片手に汗を拭っていた仁王と柳生が私に気付いたらしい。
近寄ってきたかと思えばフェンス越しに声をかけてきた。
「北河さん、いらしてたんですか」
「うん、勝ってたね」
「ギリギリじゃったがのう」
そうだねと言ってから、数秒の沈黙がおりる。
ああ、何だか笑いたくなってきた。
「それでさ、いつまでソレやってんの?」
「?何のことですか?」
「におー、流石に私は騙せないでしょ」
ねえ、柳生?と仁王に向かって笑うと、ビックリした顔をされた。
あまり仁王と柳生を知らない人なら騙せるだろうけど。
「なんじゃ、バレとったんか」
「うん。結構様になってるね」
柳生が眼鏡を外して頭をワシワシかきまぜる。
隣の仁王はグイッと口元を拭って、柳生から受け取った眼鏡をかける。
なんか面白い図だ。柳生と仁王が混ざるとこんな感じだろうというのが目の前に二人いる。
「茶髪の仁王に銀髪の柳生だ、ヘンな感じ。それにしても考えたね、入れ替わりなんて」
普通考えもつかないだろう。
仁王はトリックプレイが得意だと柳に聞いてはいたが、こんな事までするなんて思ってなかった。
しかも柳生まで巻き込んでるし。
「案外イケる策じゃと思わんか?ブンちゃんに感想聞いたら、違和感なさ過ぎてキモい言われたぜよ」
この場合の違和感はプレイでのことだろう。さっき試合してたし。
そういえば仁王は左、柳生は右利きだったと思ったけど。
わざわざ入れ替わるために練習でもしたのだろうか。
「北河さんはまだ見ていかれるんですか?」
「最後まで見て帰ろうかと思ってるんだけど」
「では、ちょっとあちらに回ってもらって構いませんか?」
柳生が指し示したのはコートの出入口。
言われたとおりに行けば、中から出てきた柳生にスポーツドリンクのペットボトルを手渡された。
「熱中症になるといけませんから、水分補給はしてくださいね」
「あ、ありがと。柳生優しいー」
笑って言うと、柳生の後ろから仁王のあー!と叫ぶ声が聞こえた。
仁王、柳生が苦笑しちゃってるよ。
「やぎゅー、綾ちゃんに手ぇ出すんじゃなか!」
「なっ、手を出すだなんて失敬な!私はただ北河さんが熱中症にならないようにと…」
仁王と柳生がギャーギャーやりだした。
というより仁王が一方的にギャーギャー言ってるだけか、この場合は。
グイグイと仁王に背中を押されて強制退場させられた柳生を見送ると、仁王が不貞腐れてた。
「何でそんな不貞腐れてんの」
「綾ちゃんが柳生に浮気した」
馬鹿の子だ、この子。付き合ってないのに浮気も何もないだろうに。
そこに突っ込んでたらキリが無いので流すとして。
「ただお礼言っただけでしょ」
「俺には中々笑ってくれんのに柳生には笑った!」
ああもうどうすれば機嫌直るのだろう。
思わず溜め息をつく。
「…ああもー、機嫌直そうよ」
「じゃあ今日一緒帰ろ」
はいはい、と頷けば仁王の顔がパッと明るいものになる。
切り替え早いな。思わず笑えば、満面の笑みの仁王にタオルを被せられた。
「え、なに?」
「日除け」
今日陽射し強いし、なんて間近で言われる。
気を使ってくれたのが少し嬉しい。
「…ありがと」
素直にお礼を言えば、にっこり笑ってどういたしましてって言ってコートに戻っていった。
何か最近仁王の我が儘が酷くなってる気がするのは気のせいだろうか。
まるで子供だ。4月のころはもっと落ち着きがあった気がするぞ。
***
仁王と一緒に帰るときは、家にあげて一緒にお茶を飲んでご飯を食べるのが普通になってきた。
今日もいつものように家に上げてコーヒーを出す。
いつも同じだから、今更何を飲むのかなんて確認したりはしない。
「毎回思うんじゃが、綾ちゃんの親っていっつも居ないんじゃな」
「家に居ることが稀だからね。忙しい人だし」
おかげで家事ができるようになったんだけど。娘はたくましく育ってるよ。
「寂しくないんか?」
寂しくないといえばウソになる。でも、そんなこと言ってたって仕方ない。
この歳になって寂しいなんて我が儘、言ってられない。
「少しはね。でも最近はこうして仁王が居たりするし」
「…そか」
小さく笑って、寂しくなったらいつでも呼びんしゃいと言われた。
心強い言葉に少しじんとする。
こういうとき、居てくれて本当に良かったと心から思う。
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