20
「そろそろ全員クラスに馴染んだところで今日は席替えすんぞ。えーと、佐藤!作ったクジこれに入れろー」
翌日のSHRでの担任の言葉。それに反応して、やったとか、えーとかいう声が聞こえだした。
くじ引きで席順を決めるらしく、佐藤さんが作っておいたらしい紙切れが平たい箱に入れられた。
「全員文句なしだからな。ちなみに視力の関係で別な席がいいというやつは各自交渉すること」
担任がそう言いながらガサガサと蓋をした箱を振る。
順番に回される箱を目で追いながら、ぼんやりとくじ運が悪いんだよなと考える。
アリーナ席とかになったら最悪だ。
「はい、北河さん」
「ありがと」
回ってきた箱をジッとみるけど、中に書かれた数字がわかるわけもなく。
溜め息をこぼしてからその中の一枚を摘み上げて、箱を後ろに回す。
カサカサと紙切れを広げて、書かれていた数字を確認して黒板に視線を移す。
「ちょっとたかやーん。一番どこー?」
「教卓上だろ、じゃあ普通右端が一番じゃね?」
席を示す四角は書かれているものの、中に入るべき数字が書かれていない。
担任はニヤニヤと笑ったまま、全員がクジを引き終えるのを待っている。
「おし、渡部まで全員クジ引いたな?」
「はーい」
それを確認した担任がチョークを持って、黒板の四角の中に数字を書き込み始める。
順番に、ではなくランダムに。
「はあ?!うっそ、たかやんひっどーーい!!」
「ずっけー!なんだそれ!」
さっきまで喜んでいたクラスメイトが悲鳴を上げ始めた。
代わりに、悲鳴を上げていたクラスメイトが喜びだす。
「あー」
思わず上げた声の語尾が下がる。くじ運が無いにもほどがある。
手元の紙切れと黒板の数字を照らし合わせる。
「綾ちゃん、席どこ?」
「アリーナ…」
こうなるともう溜め息しか出てこない。
よりによって教卓の真正面の席をひくなんて。だからくじ運悪いんだよな…。
「アリーナって、あそこ?」
「あああああ、だからくじ引きイヤなのにー!」
ペタリと机に頬をつけて仁王を見上げると、仁王は良い席を引いたのかニヤリと笑う。
「仁王は何処よ」
「ワリと良い席」
そんな会話をしてる間に担任の掛け声で席の移動が始まる。
盛大な溜め息をついて、荷物片手に席を移動する。
大人しくアリーナ席に座って両隣と後ろの席のクラスメイトを確認する。
両隣はまあ、普通。後ろの席には、フワフワと銀色が揺れていた。
「…はあ?!」
「だから、ワリと良い席っちゅーたじゃろ?」
綾ちゃんの後ろー、だなんて暢気に言ってるのは当然というか仁王で。
仁王は当然窓際の後ろの方かと思ってた。
「授業中イタズラとかしないでよ」
「えー、つまらん」
後ろでブーイングしてる仁王は放置して、机に荷物を詰め込む。
でも、嬉しくないわけじゃない。実は、少し嬉しいんだ。
まあ本人には口が裂けても言えないのだけど。
[*prev] [next#]
TOP