17




翌日教室に入れば、友達と仁王が仲良さそうに話をしているのが見えた。
小さく笑いあってるその様子は、はたから見れば付き合っているカップル。
自分の席に座って鞄から取り出した小説を開くけど、視線は文字の上を滑るだけで内容が頭に入ってこない。
どうしたものか。ちょっと考えて、机に伏せた。そういえばこうして机に伏せることも最近はなかった。
何故だろうと考えて、すぐに思い当たった。仁王が、いつも話しかけてきていたから。
そういえば、三年になってからというものずっと仁王が側に居た気がする。
何故、側にいるのだろう。最初の頃はそれこそウザったいと思っていたけど、次第にそれが当たり前になってた。
今こうして1人でいる時間は、何か物足りない。

「全員席つけー、出席とるぞーって欠席いねーな。全員出席ハイ花丸!」

担任の馬鹿な台詞も、今の私には聞こえていなかった。
頭がいっぱいで、それどころじゃない。




 ***




「あれ、仁王。今日は北河と一緒じゃねえのか?」
「おぉジャッカルか。こっちまで来るって珍しかね。綾ちゃんなら教室出てどっかフラフラ行きよった」

そうかよと言ってはみるが、仁王が北河の側にいないことが珍しくて。

「珍しいな、仁王が北河と一緒にいないって。どうかしたのかよ」
「んー」

小さく呻った仁王が、ニヤリと笑ってみせる。
詐欺師と呼ばれる仁王の笑みだ。

「今は一歩引いとるとこじゃ」
「は?」

その言葉をすぐには理解できなくて、思わず声をあげる。

「よく言うじゃろ、『押して駄目なら引いてみろ』」
「あ、あぁ…。て、お前本気で北河狙ってんのか」

それに答えるように、仁王の笑みが深くなる。
すっと細められた仁王の目は、獲物を狙う獣のそれだ。

「狙った獲物は逃がさんよ」
「北河も苦労してんな」
「何を言うとんじゃジャッカルは。苦労してんの、俺」

疲れたように溜め息をつく仁王に、苦笑。北河はニブそうだから、仁王の苦労も分かる気がする。
頑張れよと一言かけて、自分の教室に戻ってから気付いた。
伝言頼むの忘れてた。





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