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「お疲れみたいじゃのう、綾ちゃんは」

今日は一足先に屋上に来ていた仁王が苦笑しながらお茶を差し出してきた。
それに私は溜め息で答えて。

「全くです。あーもー、今度会ったら何か奢らせてやる!」
「まあまあ、落ち着きんしゃい」

小さく笑う仁王に頭を撫でられながら、お弁当を広げる。
仁王も私が手渡したお弁当を広げて、ちらりと少し呆れたような視線を向けてきた。

「…腹が立ってたとはいえ、コレはなか」
「文句言うなら食わなくていいよ、没収」

私のお弁当も、仁王のお弁当も、中のおかずは当然一緒。
そしてその出来栄えは、一言で言えば酷い。
卵焼きは焦げてるし、唐揚げも少し揚げ過ぎ。
おひたしは半生、沢庵は厚さに差がありすぎる。
自分でもココまで酷いお弁当を作ったのは初めてだ。

「別に文句は言わん」
「そ?」

仁王の返事に満足。
文句を言ったらもう二度と作ってこないところだけど、そこらへんを理解してるらしい。
まあ、卵焼きも唐揚げも少し焦げてたとしても味に大差はないし、沢庵も同じ。
おひたしに目を瞑れば、普通に食べられるお弁当だ。

「そういえばそろそろ大会だっけか?」
「地区予選、じゃの」

そういえば、どこの部活も大会が近いのを思い出す。
例に漏れずテニス部だって大会が近い。

「あのさ、」
「見に来んでよか」

見に行ってもいいかと聞く前に断られた。何でだ、ケチ。

「えー」
「地区予選なんて面白くなかよ、見にくるなら関東からにしんしゃい」

関東大会といったら、地区予選と県大会の後。
そうなると大分先の話だ。

「関東とか大分先でしょ」
「見に来たところで後悔するんがオチじゃ」
「なんでさ!」
「試合開始から1時間もせんで全試合終わるじゃろうし」
「……あー、」

常勝立海、地区予選や県大会で負けるわけもなく。
試合時間も短く済ませるということか。
他の学校がコレを言ったら見栄だろうけど、立海だからこそ納得させられる。
それだけの実力をもった選手がいるんだった。

「じゃあ東京の大会見に行くからいーもん」
「それはダメ」

氷帝の跡部の試合でも見にいくかと思ったけど、仁王にダメって言われた。しかも早!

「なんで」
「俺がイヤ。東京行かせるくらいならつまらん試合見せたほうがマシ」

仁王がちょっと拗ねてる。可愛い。

「…しょーがないなあ」

苦笑しながら言えば、仁王が顔を輝かせた。
なんていうか、最近の仁王は本当可愛いよね。なにこの子。

「そうじゃ、綾ちゃんテニス部の付き添いすればええんじゃよ」
「え、付き添い?」
「うん」

うんとか、可愛く返事されたよ。しかもにこにこしながら。
ちょう名案!って感じ?

「だってそうすればウチの試合全部見れるじゃろ?」
「…ああ、まあそうだね」

だけどそれはテニス部の追っかけを敵に回すようなものなんだけど。
それを知ってて言ってるのか、こいつは。

「ちなみに余計な心配はせんでもよかよ」
「へ?」

心を読んだかのような発言に、思わずマヌケな声が出た。
あれ、口に出してないよね?顔に出てたか?
そんな事を考えてた私はマヌケな顔でもしてたんだろう。
空になった弁当箱を片付けた仁王が楽しそうに笑いながらペットボトルのキャップを開ける。

「ファンに目つけられるとか考えてたんじゃろ?」
「当たり」

モグモグと口を動かして最後の一口を飲み下す。
お弁当を片付けて、ペットボトルに手を伸ばしたところで。

「ファン対策してあるき、大丈夫じゃ」
「…え、は?いつの間に?」

本当にいつの間に、って感じだ。
まあ普段から気にするほどじゃないから気付かないのもムリはないかもしれないけど。

「んー、お前さんがほっぺに傷こしらえた次の日あたりかの」
「…」

どんな手を使ったかは聞かないでおくことにしよう。
なんか柳とか幸村とか、その辺が動いてそうで怖い。
もっとも、入院中の幸村が動けるわけもないと思うけど。…そう思いたいよ、うん。

「じゃあ、うん。付き添いで。…て、他のレギュラーに言わなくていいの?」
「どうせ全員OKするに決まっとるし。幸村に至っては報告しろとか言いそうじゃ」

ああ、うん。なんかそうだね、幸村ならそんなこと言いそうだよ。素敵な微笑み付きで。





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