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失敗した。暇だからと校舎周りの散歩なんてするんじゃなかった…!
こっそり溜め息をつく私がいるのは校舎の角。ちょうど植え込みと外壁の隙間の部分に隠れてる。
校舎裏の木の下には、一組の男女。どうやらちょうど告白するところに居合わせてしまったらしい。
どうしたものかなーとぼんやり考えていたら、風向きが変わったせいか会話が聞こえてきた。
はっきりと聞き取れはしなかったけれど、ぼそぼそとした声が聞こえる程度。
断じてこれは聞き耳立ててるわけではない。偶然、偶然。
誰が告白されてるかとかも全然興味ないし、顔を見たわけでもないし。
途切れ途切れに聞こえてきた会話から名前なんて察することもできなかったし。
ぼへーっと空を見上げていたら、足音が近づいてきた。やべ、バレる。

「仁王先輩!」
「なんじゃ」
「先輩の好きな人って、誰ですか?」
「お前さんに教える義理はなか」

告白されていたのはまさかの仁王だったらしい。
バッチリ『仁王』って呼んでたし、あの独特の訛り。間違いなく仁王雅治だ。
それにしてもウソか本当か、断る理由が『好きな人がいるから』らしい。
驚いた。仁王に、そんな風に想ってる人がいたことに。
そして、その言葉に少し動揺している自分に。

「覗きとは感心せんのう、綾ちゃん?」
「あはは…。ごめん、偶然」

とりあえず深く言い訳するのはやめておこう。逆に怪しいだけだ。
これからどうしようかと考えたところで、仁王の溜め息が聞こえた。

「お前さん、どこから聞いちょった?」
「途中までは風向きのせいかさっぱり。さっきこっち向かってきたあたりの会話は聞こえたけど」

とりあえず正直に言っておくことにしよう。
詐欺師と呼ばれるこの男にウソをついたところで後々バレるだろうし。

「気にならん?」
「?何が?」

数秒の沈黙を破って問い掛けられた言葉。主語がないから、何を聞かれたのか一瞬わからなかった。
正直なところ、気にならないとは言い切れない。
二年生まではそれなりに彼女がいたという仁王に、三年生になってから彼女が出来たという噂を聞かないから。
女遊びに厭きたのだろうかと思っていたのだけれど、予想を裏切る先ほどの会話の内容。
気にするなという方がムリに決まってる。

「俺の好きな人」
「あー、『あの仁王雅治を射止めたのは何処の美女か』って?そこは別に」

私の言葉に、仁王が何だかつまらなそうな顔してる。心なしか口尖ってるよ。
気にならないというのは半分はウソだけど。気にしないのだ。

「…つまらんのう」
「それよりさー、好きな人いるんなら誤解されるようなことはやめよーよ」

誤解されるようなこと、イコール、昼休みのお弁当。
見つからないように屋上で食べているのだけれど、絶対見つからないわけではない。
天気が悪い日には空き教室で食べていたりするし。

「嫌か?」
「え、」

思わぬ返事に、言葉が詰まった。
パッと顔を上げて仁王を見れば、真面目な顔をしてて。

「綾ちゃんは、嫌なんか?」
「嫌とか、そういう話じゃなくて、」
「聞いとるんは俺じゃ、はっきり言いんしゃい」

刺さるような視線に耐えられなくて、顔を背けた。
嫌じゃない。だけど、そのせいで仁王が誤解されるのは嫌だ。
どこか矛盾した考えに頭が混乱する。

「……わっかんない」
「そか」

ちらと仁王に視線を走らせると、安心したような顔で笑ってて。
この答えが正解だったのだと分かった。





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