絵が繋ぐ、その感情の名は 後


全校集会ほどかったるいものはないと思う。
何が楽しくて校長の長ったらしい、何の特にもならない話を聞かなければいけないのか。
他の生徒の功績なんかも、どうでもいい。
サボろうかと思ったけれど、真田に見つかりそうになってやめておいた。
襲い来る眠気と戦いつつ、欠伸を一つ。
その直後、不意に耳に入ってきた単語に眠気が一気に吹っ飛んだ。

「3年、槙原沙耶」

驚いて顔を上げて壇上を見れば、何か賞状とトロフィーを受け取る姿。
ここ暫くの間、見ることのなかった姿だ。
俯いて壇上に並びなおす彼女の顔を見ることは出来ない。
それでも、遠目にも確認することが出来た彼女の姿に、何故か嬉しさを覚える。
会いたい、と。
そう思う自分に、疑問。
後に丸井に鈍いと馬鹿にされることになるのだけれど、そんな事が今の俺に分かるわけもなく。






 ***






会いたいと思う。
絵を描くその姿を見るだけでもいい。
そう思っても探そうとはしないのは、何故だろう。

「…会えんかのう」

ぽつり、呟いて。
休憩時間はやはり第二美術室に足を向ける。
窓は一つも開いていない。
そのガラスに手をつけて、溜め息。
視線を少し落として、気付いた。
窓枠の細い隙間。
そこにある、白い紙切れ。
内側ではなく、外側に。

「誰かの悪戯かのう?」

爪の先を使ってその紙切れを引っ張り出して、折られたそれを広げる。
ただの悪戯書きだろう。
そう思って、下らないものだったらそのまま捨ててしまうだけだったのに。

「………っ、」

6〜7センチ四方の小さな紙切れに描かれていたのは、絵だった。
落書きなんかではない。
そこに描かれていたのは、窓枠に頬杖をつく自分の姿。
小さな紙に細かく書き込まれたその絵に、言葉を失った。
誰がこの絵を描いたのか、サインなんてされているわけがない。
でも、誰が描いたのか不思議と分かった。
槙原だ。槙原が描いた絵が、ここにある。
雨風に晒された様子はない。
きっと、この絵がここに差し込まれてそう時間は経っていない。
慌ててその絵をポケットに突っ込んで、校舎の中に駆け込んだ。
槙原が居るような。
そんな気がした。





 ***






人気のない校舎の中を走り回る。
既に第二美術室は見た、けど居なかった。
捜し求める姿は中々見当たらない。
もう、帰ってしまったのだろうか。
半分諦めて、走るのをやめた。
ピタリと止まったのは、自分の教室の前だった。
何気なく教室の扉から中を覗き込んでみる。
そこには、一つの人影。
自分の席の直ぐ横に立って、机に指を這わせて。

「    」

何かを、呟くような口の動きを見せた。
伏せていた視線が、こちらへと向いた。

「久し振り、やのう」
「…に、おうくん?」

人影の正体は、捜し求めていた姿。
槙原沙耶、その人だった。
俺を見て驚いたように目を丸くして。

「何でここに、部活なんじゃ、」

問い掛ける槙原の言葉には答えずに、教室の中へ足を踏み入れる。
近づく俺に、槙原が一歩後ずさった。

「いっこ、お前さんに伝えたかったんじゃよ」
「、え」

槙原の直ぐ傍まで歩み寄って。
にこりと笑う。

「おめでとさん。俺の目も、なかなかのもんじゃな」

俺の言葉に、東城がへにゃりと笑う。
少し、顔を赤らめて。

「あ、りがと」

その表情を見て、好きだと思った。
そう思った自分にビックリしたけれど、その感情に素直に納得。
会いたいと、思う理由はそれだ。

「あの絵も良かったが、この絵もええのう」
「、っ!」

かさり、と俺の手で音を立てたのは窓枠に挟まっていたあの絵。
窓枠に頬杖をつく、俺の姿を描いた絵だ。
それを見た槙原が、驚きに息を詰まらせたのがわかった。
顔が、一層赤らむ。

「この絵、槙原が描いたんじゃろ?」
「…見つけられないと思ってた…」

小さな声で、ぽつりと呟く。
その声を俺の耳はしっかりと捉えていた。

「ま、偶然じゃがの。何で、こんな絵描いたんじゃ」

単刀直入に、聞く。
槙原は躊躇うように口を開いては、俯く。
そして、意を決したように俺を見据えて。

「美術室の窓枠に頬杖を付く仁王くんの姿が、忘れられなかった。…会いたい、って思ったから」

だから、描いたと。
彼女はそう言って、顔を伏せた。
伏せた顔は見えないけれど、髪の隙間から覗く耳は真っ赤で。

「…ほーか」

一歩、歩み寄って。
その俺よりも低い位置にある頭を撫でる。
髪が、さらりと指の間を流れた。

「相思相愛っちゅーやつかのう」
「ぅえ?」

マヌケな声を出して顔を上げた槙原に、小さく笑う。

「俺もな、お前さんに会いたいと思ったんじゃよ。じゃけぇ、ここに居る」

呆気に摂られたようなマヌケ顔の槙原との距離を詰めて、抱き寄せた。
腕の中の温もりが愛おしい。

「好いとうよ、沙耶」

俺の告白に答える言葉はなかった。
けれど、背中に回された腕が言葉の代わり。




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