意地悪スイート
「さて、出してもらおうか?」
目の前で微笑む幸村君。
有無を言わせないとばかりの威圧感を感じるのは、きっと私だけではないはずだ。
うん、椅子を寄せて一緒に話をしていた友達の顔が引き攣ってるから威圧感は私の勘違いじゃないらしい。
「ねえ、俺の話聞いてるの」
「はいぃぃぃ!」
そんな分析をしている間に、幸村君は機嫌を損ねてしまったらしい。
眉間に皺が。あああ、せっかく綺麗な顔をしているというのに。
「さっさと出せってば」
「はい申し訳ありませんどうぞお納めくださいませ」
腕を組んで仁王立ちの幸村君に捧げるように箱を掲げて見せれば。
先ほどまで感じていた威圧感がふと消え去る。
そろりと見上げれば、どこか満足そうな表情。
「あるなら早く出してよ。じゃあこれ、貰うね」
掲げていた箱を受け取るなり、ビリビリと遠慮なく包装が破かれる。
あああああ、時間を掛けて綺麗に包んだというのにそれが一瞬でただのゴミに。
心の中で嘆く間に、幸村君は中の箱を開けていて。
パクリとチョコレートを一粒。
「…うん」
「ど、どうでございましょう…」
チョコレートを食べた後の幸村君の沈黙が痛い。
ていうか、怖い。
これで不味いとか言われたらショックだ。
多分切腹しろとか言われるんじゃないだろうか。
「つまんないなあ」
「…へ?」
思わずぽかーん。
チョコレートの感想を聞いて、その返事が「つまんない」ってどういうことだ。
そういえば顔がなんかつまらなそうな、そんな感じの表情だ。
「今年は沙耶がどんな失敗してくれるのかと楽しみにしてきたのに」
「えええええ…」
どんな酷い失敗をするか楽しみにしてたって。
それってちょっと酷くないですか、私に対して。
そして失礼だ!
「去年みたいな失敗してたら笑ってやろうと思ってたのになあ」
「そんなことを楽しみにされましても…」
それって、アレか。
私が失敗しないようにひと月も前から試作に試作を繰り返した努力が無駄になったってことか。
期待に応えられなかったってことか。
…なんか、ショックだ。
「冗談だよ。美味しいよ、凄くね。沙耶のショック受けた顔もいいけどさ、」
「……」
嘘だ、絶対嘘だ…!
絶対本音入ってる!
ていうか、ショック受けた顔に対して「いい」って!ドSか!
「でも、どうせ見るなら俺は笑顔のほうがいいな」
「…あんなこと言われて笑えるわけないじゃん」
誰だってショック受けるだろう、普通は。
あんなこと言われて笑ってられるほど私は心広くないし。
「うん、ごめんね」
そう言って、幸村君が私の頭を撫でるものだから。
もう、何も言えなくなってしまう。
「残りは大事に食べさせて貰うよ。…俺のために、こんなに怪我したみたいだしね」
私の手を引き寄せて、まるで労わる様に撫でる。
火傷や切り傷なんかで、私の手は絆創膏だらけ。
不器用だから、怪我をしてしまうのは仕方ないことなのに。
別に、幸村君が気にすることなんてないのに。
「早く治るといいね」
そう、言って。
「……っ?!!!」
私の手に頬を寄せたかと思えば。
手、手の甲、に、
キス、していきやがりました…!!
しかも本人既に教室のドアのあたりまで移動してるし!
あははとか笑いながら!
「ホワイトデー、沙耶がくれたものに応じたプレゼント準備しておくから楽しみにしてるといいよ!」
…それって、本当に期待していいものなんでしょうか…。
こんなやり取りを一部始終見ていた友達からは、
「アンタ等ってワケ分かんないカップルよね…」
って言われた。
うん、だって私だってワケ分かんないもん。
意地悪スイート
----------
去年の幸村VD短編の続き(?)
幸村様が素敵にドSww
Happy Valentine?!
2011.02.14
TOP