柳生発見!



テニス部レギュラーはいないだろうかと教室前の廊下を歩いていたら、廊下のドアからちらりと見えた姿に足を止めた。ひょいと中を覗き込めば、茶色い髪にメガネのその人。

「やっほー柳生」
「おや、貴方でしたか」

どうやら部活に行くために荷物を纏めていたところだったらしい。机の上には教科書やノートがきっちり揃えて置いてある。

「今から部活行くの?」
「ええ、少し遅くなってしまいました」

教科書類を鞄に詰め込んだ柳生が、椅子に座ったまま私を見上げる。薄らと笑って、で?と私に声を掛ける。

「んー?」
「おや、今日が何の日かお忘れということはないでしょう?」
「じゃあ遠慮なく。『Trick or treat?』」

お決まりのセリフを告げれば、柳生が鞄の中を探る。そして出てきた手にのっていたのは綺麗にラッピングされたマフィン。マフィン自体もそうだが、ラッピングまでもハロウィン仕様になっている。凝っているなあ、と感心してしまうほどの出来だ。

「母が作ったものですが」
「あ、そーなんだ。やっぱりハロウィン意識してるよねー。凝ってる」

やはりというか、マフィンの色は薄らとオレンジに染まっている。きっとかぼちゃの色だろう。

「美味しそうだね、ありがと!」
「いえ。では後程」

何で男子テニス部の家族は料理上手ばかりなのだろうか。そのおこぼれに預かっている身としては嬉しいばかりである。時として体重に深刻な問題が生じてしまうのは嬉しくないが、仕方ないだろう。
手にしていた籠に今ほど柳生に貰ったマフィンを入れて、足取り軽く教室を背にした。うん、やっぱりハロウィンて楽しいな!






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