「仁王、最近良いことでもあったのか?」

部活が終わって部室で着替えている最中に、隣に立った参謀がぼそりとそんなことを聞いてきた。
思いもよらぬ問い掛けに、しばし動きが止まる。

「さーて、どうじゃったかのう」
「誤魔化しは効かないぞ。ここ数日で表情が柔らかくなったというデータがある。それと同時期に、昼になると何処かへ姿を消すと言う話も聞いている」

舌打ちでもしたい気分だ。
一体何処から情報を仕入れてくるのだろうか。
表情に関しては自分の不注意だろうから、そこは何も言えやしないが。

「何かあったとしても参謀に教える義理はなかね」
「そういえばここ数日、『クラウン』の昼の活動時間がずれたというデータもあるな」

着替えながらちらりと参謀に視線をむければ、参謀も同じようにネクタイを結びながらこちらを伺っていたらしい。
ぱちりと視線がぶつかる。
そのままスイと視線をそらせば、小さく喉で笑うのが聞こえた。

「この三つのデータが関係あるのかどうか、俺としては非常に興味があるのだがな」
「参謀の気のせいじゃなか?偶然なんと違うんか?」

他の奴等にみょうじなまえの事を知られるのは癪だ。
彼女のことを知っているのは俺だけで十分だ。

「知っているか、仁王」

ちらりと視線を向けた先では、参謀が口元に笑みを浮かべていた。
その笑みに、嫌な予感がした。

「偶然が三つも重なるということはまず有り得ない。有り得るのは必然だ」


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