「そういや最近『クラウン』て見なくね?」
テニス部の後輩の指導をした帰りに、何気なく丸井が思い出したように口にした言葉。
久々に人の口から聞いた『クラウン』という単語。
『クラウン』が学校から消えて1週間ほど。
それは、みょうじなまえが転校してからの日数と同じ。
「あー、そーいやそうだな」
隣でジャッカルも頷いている。
だが、俺は別にそう思うことはない。
「なあ、仁王は最近『クラウン』見たかよ?」
ガムを膨らませながら、ひょいと顔を覗きこまれ。
ニヤリと笑って。
「んなの毎日会うてるぜよ」
そう言って、真ん丸く膨らんだガムを潰してやる。
ブランと垂れ下がるガムに喉を鳴らして笑う俺を、丸井は驚いた顔で見ている。
「はあ?!嘘だろい」
「嘘じゃなかよ、ほれ。あそこに居るじゃろ」
俺が指差した先には、今までとは違う制服をきたみょうじなまえの姿。
歩いてきた俺たちに気付いたらしく、ひらひらと手を振っている。
「あ?あれってこの間転校してったヤツだろい。『クラウン』じゃねーし」
「じゃから言うとるじゃろ。アイツが『クラウン』じゃって」
こちらに向かって手を振っていた彼女が、何処からか仮面を取り出して顔に当てて。
まるで観客を前にしているかのように丁寧にお辞儀をする。
それは確かにいつも『クラウン』がしていた動作。
「…はあ?!アイツって、みょうじだろい?あの無愛想なみょうじが『クラウン』?!」
「あー、何となく納得だな。そういやみょうじ、妙に器用だったし」
ジャッカルは去年名無しと同じクラスだったらしく、すんなりと納得していた。
丸井1人が納得しきれずに嘘だろ、と繰り返している。
「そんで今は俺の彼女な。つーわけで手ぇ出すんじゃなかよ?」
驚きに言葉を失くす二人を置いて歩く。
彼女の傍まで行けば、仮面を外して悪戯に笑う。
「さてこちらにお出での皆様、『クラウン』こと私、みょうじなまえによるショーの始まりです!」
彼女にはもう、『クラウン』の仮面は必要ない。
忘れられたくないのなら、俺が架け橋になってやる。
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