人生は中々思い通りには行かないのだと今日ほど痛感させられたことはなかった。
胸の奥底で、真新しい傷がジクジクと痛む。
彼女の赤く染まった頬に、僅かながらも期待したのがいけなかった。
強く胸を押されて、拒絶され。
挙句、転校するのだと事実を告げられた。
「馬鹿か、俺は…」
ふらりと壁にもたれかかると、そのままずるずると下へと滑る。
立てた膝に顔を埋めて溜め息をつく。
足の隙間から見える床に、誰かの靴の爪先が入り込んで止まった。
「何をしているんですか、仁王君」
「…やぎゅー」
顔を上げれば、呆れたような表情の相方の姿。
溜め息を1つついた柳生が、ふっと視線を何処かへと向けた。
「そういえば、『クラウン』のショーがあったんですね」
「…ああ、」
柳生の視線が向けられていたのは、第一体育館のある方だった。
「今日限りで、『クラウン』は人の前から姿を消すんじゃて」
「何故、それを仁王君が知っているんです?」
聞かずとも分かるだろうことを、あえて聞いてくるコイツがたまに嫌になる。
柳生の視線は、相変わらず第一体育館に向けられたままだ。
「聞いた。『クラウン』はこの学校からいなくなるんじゃて」
『クラウン』が居なくなることに、この学校の生徒はこれと言って何も感じないかもしれない。
けれどそれは『みょうじなまえ』という生徒がこの学校から居なくなることを指す。
「らしくないですね。『クラウン』が気になるのでしょう?」
今日はよくそう言われる日だ。
『俺らしくない』と。
らしいとは、一体どんなんだ?
それすらも分からなくなってきている。
「そんな簡単に諦めるような人ではなかったでしょう?逆に面白がって、どんな手を使ってでも手に入れるような人だったはずです」
余裕をなくしていた。
柳生の言葉に、冷静さが戻ってくる。
気付いた自分の気持ちに、ただ戸惑っていただけだ。
「目ぇ覚めたぜよ、柳生」
「寝ていたんですか?」
立ち上がると、小さく悪戯に笑う柳生の肩を軽くパシンと叩いて。
ニヤリと笑って見せた。
このまま手放してなるものか。
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