ステージの上では『クラウン』がジャグリングを披露していた。
最初はボールを使った簡単なものだったが、生徒を1人助手としてステージに呼んで。
3つのボールでのジャグリングから、1つずつボールを増やして最終的には10個でのジャグリング。
それを見ていた観客である生徒達から歓声があがる。
他にも様々なジャグリングを披露した後は、生徒を呼んで手品に巻き込んでいく。
その様子を俺はただ遠くから見ているだけ。
歓声を上げるでもなく、ただ視線を投げかける。
何故彼女は海原祭でステージに上がることを決めたのだろうか。
ショーを終えてステージを去る『クラウン』としての彼女は、もう二度と見れないのだろう。
そう思うと、何故か胸を喪失感が襲う。
気が付けば彼女を追いかけて走り出していた。

「人に何にも言わんでいくやつが居るか…!」

そんな関係を望んだのは俺で、彼女だ。



 ***



探して、探して。
学校中を走り回った。
俺らしくも無い。
こんなにも焦るだなんて。
けれど、焦るなというほうが無理だ。

「何処、行きよった…」

名無しが今まで出没していた場所は既に回った。
けれどそこには彼女の姿はなくて。
闇雲に走って探しては見るが、彼女らしい姿は見つけられないまま。
肝心なことは何も話さずに終わるのだろうか。
裏庭の木陰で立ち止まって、息を整える。
汗が米神のあたりから流れ落ちる。
大きく息を吐いて、上を見上げた。
上を見上げたその視線が、とある所で止まる。
何処を探しても見つけられないわけだ。
太い枝からぶらりと垂れ下がった足。

「みょうじ!」

声を張り上げると、足がゆらりと揺れた。
仮面を持つ手がにょろりと出てきたかと思えば、俺を呼ぶようにひらひらと揺れる。
木に歩み寄ると、手近な枝に手と足をかけて登る。
1分かけて木に登れば、彼女は太い枝に跨っていた。

「探したぜよ」
「…汗だくになるほど走り回ってくれたんだ?」

ちらりと視線をこちらに向けた彼女が、らしくないと言って喉を鳴らして笑う。
そんな彼女を、俺は言葉も無くただ見下ろす。
笑いがおさまった彼女と、視線がぶつかる。

「本当なんか」

聞きたかったこと。
参謀から聞いたことが、本当なのかどうか。
それを確認するために彼女を探していたのだ。

「何のこと?」

彼女はきっと俺が何のことを言っているのか知っている。
それでもあえて俺の口から言わせようとする。

「転校するて、本当なんかって聞いとる」

参謀がどこから情報を仕入れたのかは知らない。
けれど、参謀がもたらす情報が間違っていたことは未だない。
信ずるに値する情報だ。
だからこそ、彼女自身の口から聞きたかった。

「本当と言ったら?」

無表情で言うから、彼女が何を思っているのかが分からない。

「さあのう。何しろ今の俺は自分でも何をするのかがよう分からんきに」

これは事実だ。
彼女の事となると自分が何をしでかすのか、自分でもわからない。
だからこうして自分らしくも無く焦って彼女を探し回ったりしている。

「それこそ仁王らしくない。何、そんなに私の事好きだった?」

みょうじの口から零れた思いもよらぬ言葉に、身動きできなくなる。
動けなくなった俺を見て不思議に思ったのだろう、彼女が首を傾げた。
その動作に合わせるように、短い髪がさらりと揺れる。

「仁王?」

つんと制服が引っ張られるのに気付いて、木の枝にそのまま座る。
座れば、みょうじとの目線の高さが同じになる。
それをいいことに、彼女をぐいと引き寄せて。

「っ?!」

口付けた。
ただ触れ合わせただけの、キス。

「好いとう」

間近でそう囁けば、白い肌が紅を刷いたようにさっと色付いた。


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