ステージの個人利用を許可しているのは、第一体育館。
ふらりとそこに足を向けてみれば、すでにそこには結構な人数が集まっていた。
大方ミニライブでもしていたのだろう、大体の生徒はステージ前に集まってアンコールの大合唱をしていた。
けれどアンコールまで考えていなかったのだろう、ステージには誰も出てこない。
代わりに運営委員か何かだろう、数人の生徒がステージの上を片付けていた。
興味を失くした生徒がポツポツと去っていく。
けれど、俺が興味を持つのはこの次にするものだ。
みょうじなまえの、ショー。
この学校での、たった一度の正式な場でのショーだ。

「『クラウン』だ…」

誰かの声が、ぽつりとそんなことを言った。
それを別な誰かが耳にしてざわめきが広がっていく。
体育館を去ろうとしていた生徒が、ステージ前に戻ってくる。
ざわめきは外にまで広がり、徐々に人が集まりだす。
ステージ上に立つのは、あの仮面をしたみょうじの姿。
どこで調達したのだろうか。立海の男子の制服を着ていた。

「噂は本当だったようだな」

後ろから投げかけられた声に、ちらりと視線を向ける。
予想通りの姿に思わず溜め息が出た。

「『クラウン』の正体、仁王はずっと前から知っていたのだろう?」

参謀の言葉には答えず、ただ真っ直ぐにステージにだけ視線を向ける。
一瞬たりとも彼女の姿を見逃すものか。
何故だろう、そうしなければいけない気がした。

「みょうじなまえ」
「っ、」

参謀の一言に、俺の視線はあっさりとステージから逸らされた。
何故知っている。
バレるような事はしなかった。
彼女と会うのは、昼休みのあの時間だけだ。
バレるはずがない。

「当たりか」
「知らんな」

何故バレたか。
そんなことはもうどうだっていい。
考えるべきは、バレてしまったこれからをどうするかと言うことだ。

「『コート上の詐欺師』もコートの外ではただの人だったようだな」

勝手に言っていればいい。
最初から俺は詐欺師になった覚えはないのだから。

「余計な詮索はするんじゃなか」
「ではこの情報もいらないか」

その言葉がやけに引っかかった。
ちらりと参謀に視線を向ければ、小さく笑みを浮かべていた。


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