「どーゆー風の吹き回しだよい」
「別に。何でもよかろ?」

レンタルしてきたというウエイターの制服に着替えていたら、隣で着替えていた丸井がちらりと視線をこちらに向けて聞いてくる。
まあ聞かれるだろうとは思っていたが、答えるのが面倒だから適当に流す。

「どーだっていいけどよい。珍しいこともあるもんだなーと思って」
「俺は短時間にしてもらったきに、代わりにブンちゃん、馬車馬の如く働くんじゃよ?」

ニタリと笑って言ってやれば、ゲッと言って顔を顰める。
その顔があまりにも可笑しくて、喉を鳴らして笑う。

「タイ曲がってるぜよ」

着替え終わった丸井を見て指摘してやる。
モノトーンの制服。
ウエイターの服装としてはフォーマルなカマーベストと蝶タイ、それにエプロン。
全体的にすらりとした印象を与えるものの、実際に自分が着てはどうなのだろうか。
全身を写せる鏡が近くにないからいまいちどうなのかがわからない。

「…仁王はふっつーに似合うよな」
「嬉しくなか」

こんなものが似合ったところでどうなるわけでもない。
面倒ごとが増えるだけだ。
本当に、嬉しくない言葉だ。



 ***



「今日はやらんのか?」
「海原祭明日でしょ、準備があるし。練習もしておきたいから」

手品をする気配がないから聞いてみれば、そんな言葉が返ってきた。
海原祭と練習が何の関係があると言うのだ。

「わけが分からん。何で明日海原祭っちゅーのとみょうじの手品が関係あるんじゃ」
「言ってなかったけど、個人でステージ貸し出して出し物できるじゃない?」

彼女の言葉に、まさかと思った。
そこまで言えば、彼女が何をするのか分からないほど馬鹿ではない。
でも、だからこそ。
嘘であって欲しいと思った。

「そこでショーをしようかと思って」
「止めんしゃい」

気が付けば、彼女の手首を握り締めていた。
目の前の彼女が驚いた顔をしているが、それよりも自分で自分にビックリだ。
何故自分は彼女のすることを止めようとしているのだろうか。
止める権利などありはしないのに。

「止めとけ。正体バレるぜよ」
「バレたところで特に問題があるわけでもないし。大丈夫だと思うけど」
『クラウン』は正体が謎だからこそ価値があり、だからこそこうして活動していられたのだ。
正体が明らかになった『クラウン』に価値があるとは思えない。
そうなれば、次にどうなるかは容易に想像できる。

「大丈夫?何でそんなことが言えるんじゃ」
「分かるから」

既に決められたことを述べるように。
それは予言か、予告か。


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