「やらん」
イライラしている俺の前には、クラスメイトと担任の姿。
クラスメイトは両手を合わせて、担任は困ったように笑っている。
「お願い!もう生徒会に企画書提出しちゃったし、」
「知らん。人を騙すようなことしといて頼み込み?は、ようそんなことが出来たもんじゃのう」
俺の言葉にクラスメイトはだって、などと言っているが聞く耳持たん。
こんな騙すようなことをされるくらいなら、最初から言ってもらったほうがまだ気分的にマシだ。
「丸井かて知らんのじゃろ」
「あ、丸井君はオッケーくれたの。だから仁王君、ね?」
何が『ね?』だ、ふざけるな。
誰が喫茶店のウエイターなんてやるものか。
丸井は何でオーケーしたんだ、知っていたなら一言教えてくれたって良いものだろうに。
どうせ丸井の事だ、何かに釣られたのだろうけれど。
「丸井がやっても俺はやらんぜよ」
俺がウエイター?
それをやって、どんなことになるかなんて目に見えている。
あんなこと、二度とご免だ。
***
「ウエイター?」
「やれってうるさかったナリ」
クラスでの出来事を愚痴っていたら、目を伏せた彼女がフッと笑うのが分かった。
微かに、ではあるが。
滅多なことでは笑わない彼女が、笑った。
「なんで?やればいいのに」
「去年も似たようなことさせられたが、もう二度とやりたくなかね。最悪じゃよアレは」
去年の出来事を思い出してげんなりする。
クラスの前に出来た行列。
殆ど休む間もなく接客をさせられ、挙句無断で写真を撮られたり。
接客中にはセクハラまがいのボディタッチもされた。
あれを今年もやれと言われてはいそうですかと受けるわけが無い。
軽いトラウマになるほどの事を、今年もさせられてなるものか。
「条件を出せば?1日目のこの時間帯だけ、って。そうすれば他の時間はずっとフリーでしょ」
「…やけにあいつ等の肩持つのう、みょうじサン?」
そう言ってやれば、バレたかと悪戯に肩をすくめる。
「ちょっとね、仁王のウエイター姿を見てみたかっただけ」
「そんなん見ても面白くなか」
それでも、みょうじのその言葉を聞いただけで少しでもやってみようかと思った。
そしてそんなことを思った自分に疑問を抱いた。
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