かろうじて参謀の詮索を逃れながら数日を過ごす。
その間に、学校の雰囲気が徐々に変わり始める。

「海原祭、今年俺等何すんだと思う?」

大会も終わり、テニス部を引退して。
後輩の指導に力を入れている今としてはあまり関係なさそうな気もするが。

「さあのう。実質俺等は引退したようなもんじゃ、後輩に任せればよか」

クラスでの出し物を決めている中、丸井が声をかけてきたから適当に答える。
ぼんやりと眺める黒板には、文化祭らしい出し物の名前が次々と挙げられていく。
いくら中学最後とは言っても、そのまま持ち上がるのなら高校でも合同でするのだから大して感慨を覚えたりはしない。
特別頑張ろうという気は最初からない。

「おっまえはまたそーゆーことを…。頑張ろうとかそういうのねーのかよい」
「んな事言うてもな。来年ないんならまだ分かるがどうせ持ち上がりなんじゃ、頑張る理由も特になか」

正直に言ってやれば、あっそ、とだけ。
丸井に向けていた視線を黒板に戻せば、いつのまにやら出し物は決まっていたらしい。
幾つかあがっていた出し物のうち、クレープ屋という文字の上に決定を示す赤丸がグルグルと書かれていた。



 ***



「みょうじのクラスは何やるんじゃ?」
「…ああ、海原祭?」

もくもくとトランプを切っていた彼女を、あぐらをかいた膝の上に頬杖をつきながら眺める。
カードにその視線が向けられているために、目が伏せられている。
睫毛が長いなどとどうでも良いことをぼんやりと思う。

「お化け屋敷とか言ってたかも」
「無難なトコじゃのう」

準備面倒だけどね、と言って彼女は切っていたトランプを扇状に広げる。
その中から一枚適当に引いて確認する。
ダイヤの4。

「仁王は何?」
「クレープ屋じゃと」

聞いてきた割にはふぅん、と特に興味を持つでもない返事。
彼女がこうして聞き返してくるのは興味があるからではなく、ただの社交辞令としてのものだとつい最近気が付いた。
トランプを束の中に戻すと、彼女は再びトランプを切り始める。

「クレープ屋とはまた意外。どうせならもっと目立つようなことでもするかと思った」
「皆面倒なだけじゃろ?」

そうは言ってみたものの、何かがあるような気がしてならない。

「みょうじはどうせ裏方じゃろ?」
「それもあるけど。他にもすることあるから」

彼女の返事が、何故か気になった。
他にすることがある?
けれど、それが何かを聞くことはしなかった。
彼女とはそんなことを聞いて良いような仲ではない。
いつの間に移動していたのだろう、ダイヤの4のカードは彼女のポケットにあった。


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