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昼休みにぱかりと開いたお弁当。
その中身に、ちょっと沈んだ気分になった。

「お弁当見て何変な顔してんの?沙紀ってば」
「よっちゃん…」

そりゃあ沈んだ気分にもなるというものだ。
私の前にあるのは、お世辞にも美味しそうとはいえないおかずが詰め込まれたお弁当。
いつもの見栄えのいい綺麗なお弁当とは天と地ほども違う。

「今日は自分で作ってきたの?」
「叔母さんと叔父さん、二人とも結婚式だっていって泊り掛けで出掛けちゃってて」

家にいるのは私と、従弟の慎也君だけ。
本当なら慎也君は友達だとか別の親戚の家に泊まりに行く予定だったらしいのだけれど、私がいるからという理由で急遽家に残ることになったのだとか。
私一人のためだけに慎也君を巻き込んで申し訳ないと思い、料理だけはしっかりしようとしているのだけれど。

「…どうにも見た目が悪くてさあ」
「色悪くても味はええのう」

私のお弁当から卵焼きが消えた。
ぽかんとしつつも視線を上げれば、もぐもぐと口を動かす仁王君の姿。

「卵焼きは私の自信作!ってか勝手に食うな!」

ぺろりと指を舐めとる仁王君のお腹に軽いパンチ。
腹筋に阻まれて大したダメージはないらしい。
痛がる気配は微塵もない。
ちょっと悔しく思いながら、お弁当に箸をつける。

「見た目の悪さも料理に慣れればよくなるじゃろ」
「おいしいんだからいーじゃん」

自分でも分かるほどに膨れ面になっている。
不細工なんだろうなあと思いながらも、表情は中々変わってはくれない。
そのままもくもくとお弁当を食べていたら、仁王君が急に吹き出す。

「は?」
「は?って、…お前さん、なんちゅー顔して弁当食うちょるん、…っ」

くつくつと笑いを堪えているつもりなんだろうけれど、肩が震えていて堪え切れていないのが目に見えて分かる。
人の顔を見て笑うとか、酷くないだろうか。
それにむっとして軽く頭を叩いてやったものの、笑いは収まりはしなかった。

「あたしからすればそんな風にお弁当作ってこれるだけ凄いと思うけどね」

あたしが作ったら冷凍食品ばっかりだわ、というよっちゃんが天使に見えた。
嬉しいことを言ってくれる親友だ。

「まあ料理の出来ん新浜よりは幾分マシじゃな」
「はあ?!ふっざけんなよ仁王、あたしだってやりゃーできるっての」

ひとしきり笑った仁王君が、にやりと笑って言った一言によっちゃんが食って掛かる。
仁王君の胸倉引っつかんでぎゃーぎゃー言ってる彼女はたまに男勝りだ。
二人のやり取りを見て、私は苦笑。
全体的に茶色っぽいお弁当を見下ろして、もう少し料理頑張ろうと密かに誓う。

「…んで、お前さんち従弟と二人きりなん?」
「んえ?ああ、うん」

いつの間にか二人は距離を取っていて、よっちゃんはむすっとした顔でお弁当に箸を伸ばしていた。
仁王君はクラッシュゼリーのパックを片手に、首を傾げて聞いてきて。
頷いて返せば、ほう、という言葉。

「沙紀、今日は放課後真っ直ぐ帰るんか?」
「んーん、今日は図書館当番入ってて。遅くなりそうなんだよね」

できるだけ早く帰って夕食の準備をしてしまいたいのだけれど、当番があるとなるとそうも行かない。
従弟の慎也君にはその旨を伝えてあるから、待っていてくれるとは思うのだけれど。
それでもお腹をすかせた状態で待たせるのは心苦しい。

「結構遅いんじゃろ。危ないけぇ、送ってっちゃる」
「え、いーよ別に。部活の後で疲れてるでしょ?」

テニス部が、全国制覇を目指して練習に熱を入れているのは知っている。
毎日クタクタになっていることだって。
だから、そんなきつい部活の後に送ってもらうのは悪い気がして。
断れば仁王君はええから、と少し強い口調。

「沙紀ー、仁王君てば沙紀のことが心配なんだってさ。送られてあげなさいよ」

ニヤニヤ笑いのよっちゃんの台詞に、仁王君がちらりと視線を投げてやる。
と直ぐに私を真っ直ぐ見据えて。

「余計なこと言うちょるやつは無視するとして。ええな?」

よっちゃんの台詞をさらりと流して、私に確認する。
何だかそれが嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。
仁王君の目が、少しだけ見開かれたような気がしたのは気のせいだろうか。

「ありがと」

お礼を言えば、仁王君はふと笑う。
その笑みが何故かとても綺麗で。
頬がじわりと熱を持った。





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