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「さーて、答えてもらおうかな沙紀ちゃんよ」
昼休みになって、机を寄せたよっちゃんがお弁当を広げながらにやりと笑う。
私もよっちゃんにならってお弁当を広げながら、一瞬なんだっけ?と考え込んで。
それから思い出した、今朝のやり取り。
「私と雅治が幼馴染ーってあれ?」
「そーそ。全然そんな感じじゃなかったわよねー?なんでいきなり」
よっちゃんが不思議そうに言って、パックのお茶を一口。
私もパックのお茶を一口飲んでから口を開いた。
「理由は簡単。私が雅治を忘れてたってだけ」
「…は?」
ぽかんとした顔になったよっちゃんに、事の次第を説明する。
仁王君が幼い頃に引っ越していったこと、暫くはそのことを私が忘れていたということ、仁王君の名前を聞いても中々思い出さなかったことなど。
よっちゃんは途中口を挟みながらも、私の話をちゃんと聞いてくれて。
それでやっと納得してくれたらしい。
「はあ。仁王君もまた忘れられて可哀相にねえ」
「それを言われるとイタイ…」
何も言い返せなくてもそもそとお弁当をつつく。
私が悪いのは十分承知している。
でも、だからこそこうして仁王君と打ち解けて話が出来るのは嬉しいのだ。
以前住んでいた所に連れて行けといわれたときはどうなることかと少し心配していたのだけれど。
「まーったくじゃ。酷いやつじゃと思わん?のう、新浜」
「だからアンタ沙紀にだけやたらと冷たかったわけ?言えば良かったじゃないのよ」
ひょっこり顔を覗かせて、私のお弁当からアスパラのベーコン巻きを攫って行く。
口の中に放り込んで咀嚼。
飲み込んでから、美味いという声。
「不味いとか言ったら殴るよ」
「でも沙紀が作ったわけじゃなかろ」
しゃがみ込んだと思えば、カキンという音を立てて持っていた缶コーヒーのプルタブを開ける。
一口飲んで、両腕を折り曲げた膝の上に伸ばしてぼんやりどこかを見上げる。
「…そー簡単には言えんもんぜよ」
ぽつりと呟くような小さな声。
よっちゃんが、え?と聞き返すけれど、同じ事を言うつもりはないらしい。
伸ばした腕の間に顔を埋めて、溜め息をつくのが聞こえた。
「欲っちゅーんは厄介じゃのう」
「いきなり何の話してんのよ仁王君は」
呆れたような視線を落とすよっちゃん。
私も、仁王君が何を言おうとしているのかはわからない。
銀色の髪を見下ろしながら、お弁当をつつく。
すると、再び溜め息。
「さっきから溜め息つきすぎ、うっざいよ」
仁王君はウザイと言い放ったよっちゃんをちらりと軽く睨んで、コーヒーを喉に流し込む。
その視線は、ここではないどこかを見ているようだった。
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