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「沙紀、おーはよ」

月曜の朝。本から視線をあげれば、にこりと微笑むよっちゃんの姿。
開いていたページにブックマーカーを挟んで閉じた本を机の上において、私も笑う。

「おはよーよっちゃん」
「俺には挨拶なしかのう、沙紀」

私の向いている方向とは逆、背後のほうから掛けられた声に肩が揺れた。
にゅっと伸ばされた腕が、私の机の上の本を攫っていく。
ひっこむ腕を視線で追いかければ、涼しげな顔をした仁王君。

「おはよう雅治、それ返してー」
「これ、面白いんか?」

ぱらぱらとページを捲る仁王君の手から本を奪い返す。

「私は面白いと思うけど。コレはシリーズの2作目なんだけど、読む?」

私の好きな作家のいくつかのシリーズのうち、一番好きなもの。
その1作目は、ついこの間読み返したばかり。
今、そのシリーズは10作目まで発売されている。
来月には11作目が発売されるので、それまでにもう一度最初から読み返したくなったのだ。

「たまに読んでみるかのう」
「じゃあ明日ね」

仁王君とそんな会話をしていたら、よっちゃんが驚いたような表情でこちらを見ているのに気付いた。
どうかしただろうか。不思議に思って声を掛ければ、私の机に両手をついてズイッと身を乗り出して。

「何、何で仁王君と沙紀ってば名前で呼び合ってんの?!金曜まで苗字だったよね?」

言われた言葉に、目をぱちくり。
そういえば、金曜まではそうだったのを忘れてしまっていた。
土日は妙に密度の高い過ごし方をしたせいで、名前で呼ぶことに抵抗なんてなくなってしまっていた。
それに、よっちゃんにはまだ仁王君との関係をきちんと教えてはいなかった。

「まさか知らない間に付き合ってたとか?」
「ないない、流石にそれはない」

女として見られていないのに、流石にそれはない。
手を横に振って否定すれば、よっちゃんがそう、と安心したように溜め息をつく。
自分の席に移動した仁王君は、何故か不機嫌そうな顔をしていたが。

「よっちゃんに言ってなかったけど、雅治と私、実は幼馴染なんだよね」
「…え」

予想もしていなかったのだろう。
私の言葉に固まるよっちゃん。
あまりにそれが長いものだから心配になってよっちゃんの前で手をひらひら。

「よっちゃーん?」

ひらひらさせていた手がよっちゃんに掴まれた。

「早く言いなさいよビックリした、っていうかなんで今まであんな余所余所しかったのよ」
「…えっとー、」

余所余所しかった理由は、今は言い難い。
ちらりと視線を仁王君に向ければ、ジトッとした目でこちらを見ていた。
なおさら、言い難い。
笑って誤魔化そうとするけれど、彼女はそれで誤魔化されるつもりはないようで。
早く言えとでも言いたげな視線を向けてくる。
逃げ場がない。

「二人してどうかしたの?」
「あ、幸村君おはよう!」

これぞ天の助け。
横から掛けられた声ににっこり笑って挨拶を返す。
幸村君は少しビックリしたように目をパチパチさせて、それからにっこり笑って挨拶を返してくれた。

「うん、おはよう」

そして教室に入ってくる担任。
普段何とも思わないけど、今日だけは感謝。ぐっどたいみんぐ。
よっちゃんは舌打ちをして担任を睨んでる。その横顔が怖いです。
今はいえないけど、後で言うから!と心の中で言い訳。
ちらっと視線を向けられたから、口パクで後で、と言っておいた。





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