24




朝目覚めて、状況が理解できなかった。
自分の居る場所がわからないわけじゃない。
何年も慣れ親しんだ場所だから、わからないわけがない。
ただ、何がどうしてこんなことになっているのだろうか。

「ちょ、っと!に、…雅治、」

私が居たのは自分の家の、自分の部屋の、自分のベッドの上。
それはいい。それは別に普通のことだ。
けれど、何故。何で仁王君が普通に私の隣で寝ているのだろうか。
しかも私の背中に腕を回して。
べちべちと平手で仁王君の胸を叩くと、唸り声。
穏やかだった寝顔が顰められる。
うう、と唸ってシーツに顔を埋める。

「起きて、って!」

べちん。いっそう大きな音をさせて仁王君を叩いたら、流石に痛かったらしい。
咽るような咳を一つして、薄らと目が開く。

「…痛か」
「おはよう」

寝起きの、いつもより少しだけ低くて掠れた声に、少しだけ心臓が強く脈打った。
銀色のさらさらの髪がカーテンの隙間から差し込む光で輝く。
整った容姿をしているというだけで、寝起きなのにこんなに色気って出るものなのだろうか。そんなことを考えつつ、それを顔に出さないようにして声を掛ける。

「んー…、おはようさん」
「何でベッドで寝てるの、この腕なに!」

ペシペシと私に回された腕を軽く叩くと、数回瞬き。
少し笑った仁王君の腕に、力が込められた。

「じゃって、昨日寒かったんじゃもん」
「人を湯たんぽにしないでくれるかな…」

ベッドの上で脱力。
寒かったって。だからと言ってベッドに潜り込んで、挙句湯たんぽ代わりに抱きつかないでほしい。
目が覚めた瞬間に口から心臓飛び出すかと思った。

「着替える!」

言うと、もぞもぞ仁王君が動いて私に回っていた腕から開放された。
ベッドから降りて服を出せば、背後で仁王君が起き上がったらしい気配。
振り向くと、ベッドの上に起き上がってぼんやりとした顔でこちらに視線を向けていた。

「雅治君、部屋から出てくださーい」

見られていては、着替えが出来ない。
笑って言うと、暫くの沈黙の後にゆっくりと立ち上がってドアに向かう。

「…俺も着替えてくる」
「準備終わったら朝ごはんにしよ。簡単なのでいいよね?」

聞くと、おんという返事。
ドアの開く音がして、仁王君が部屋から出て行く。
閉じたドアを確認して、思わずしゃがみ込んだ。

「…は、恥ずかし…!」

特に何があったというわけじゃない。
朝目が覚めたら隣に仁王君の寝顔があったというだけで、こんなにも恥ずかしい気分になるだなんて。
改めて思い出して、顔が赤くなる。
昨日の夜に色んな話をして打ち解けたとはいえど。
いきなりこれはないだろう。
多分女としては意識されていないのだろう。
溜め息をついて、着ていた服の裾に手をかけた。
自分で勝手に想像して傷つくとか。
私は、馬鹿だ。





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