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仁王君を先にお風呂に入れて、私はひとまず着替えた。
着替え終わって、はたと気付く。
仁王君が着るような服、ウチにあっただろうか。
父は小柄だから仁王君が着るには小さいだろうし、弟はまだ中学一年で小さいし。
…そういえば、私の部屋着用のメンズのシャツがあったはずだけれど。
あれなら着れるだろうか。
下は、スウェットなら大丈夫だろう。
クローゼットから探し出したそれを持って部屋を出れば、リビングでは母がお茶を準備しているところだった。

「沙紀、ちょうど良かった。雅治君に、ってあらもう準備済み。そろそろお風呂から上がるだろうから、出しておいて。そんでお茶飲んであったまりなさいな」

かちゃかちゃとマグカップを準備しながら言う母に従って、お風呂場に向かう。
脱衣所に仁王君の服は無くて、洗濯機がごうんごうんと回っているから母が既に洗濯をしてくれたのだろう。

「仁王く、」

呼びかけた瞬間、がらりと音がして脱衣所と風呂場を仕切るドアが開く。

「あ」
「え?」

お湯を滴らせて立つ仁王君と、視線がぶつかる。
白い肌が、温まったからかいつもよりピンクに染まっている。

「…タオル、」

ぽつりと仁王君が呟いて、ああはいと慌てて持っていたバスタオルを手渡す。
脱衣所に上がってきた仁王君が受け取ったタオルで髪の水分を拭き取りながら私に背を向けた。
というか。
腰にタオル巻いててくれて助かった…!!

「着替え、置いとくね!」
「おん」

言って手に持っていた着替えを籠に入れて、ちらりと視線を仁王君に向ける。
私に背を向けた仁王君の、右肩のあたり。
傷跡が、見えた。





 ***





バタバタとリビングに戻ると、母がキッチンで洗い物をしながらテレビを見ているところだった。
慌てた様子の私を見て、少し驚いた顔をする。

「なーに、そんな慌てちゃって。お風呂上りの雅治君と鉢合わせた?」

ん?と聞かれても、私は何も言えない。
やばい、顔が熱い。仁王君と顔合わせ難い。

「あら、図星?」

にやにや笑う母に対し私は黙ってソファに座って、準備されていたお茶を飲もうとマグカップに手を伸ばす。
マグカップを手で包み込むように持つと、知らない間に冷えてしまっていた手が温まる。
熱いお茶を少し飲めば、その温かさに冷え切って縮こまった体がほぐれるようだ。

「あら雅治君。髪ちゃんと乾かしなさいな」

母の声がして、リビングと廊下を隔てるドアのところに仁王君が立っていたことに気付く。
髪の毛はまだ濡れていて、肩にかけたタオルに雫が落ちている。
それを見て先ほどの脱衣所でのことを思い出して、咄嗟に顔を背けた。
心臓に悪い、目が合わせられない。
母はぱたぱたとスリッパの音をさせて廊下へと出て行く。

「こん服って、」
「…え、ああ。着れた?サイズは…下がやっぱり小さかったよね」

眉を顰めて着ていた服を見下ろす。
服が気に入らなかったのだろうか。まあ仕方ないと思う、下のスウェットは私のだから丈は短いだろうし。

「両方とも私のなんだけどね。短いのは、まあ我慢してください」

上に着ているシャツはどうやらちょうどいいサイズのようだけれど。
下に穿いているスウェットは膝の下まで捲り上げてある。
言って再びお茶を啜ると、ドライヤーを持ってきた母が私に向かって呆れた視線を投げてよこす。

「沙紀、あんたちょっとは気を利かせなさいよねー。仁王君にお茶出してあげなさいよ」

溜め息をつきながらそう言って、仁王君に持っていたドライヤーを手渡す。
仁王君はどうも、とお礼を言って受け取るとタオルで髪をガシガシと拭く。

「…すいませんね、気の利かない娘で」

むすっとして言えば、全くだわーと言ってキッチンに引っ込んでお茶の準備。
鼻歌を歌っているから機嫌が悪いわけではない。
その鼻歌も、直ぐに途切れた。

「沙紀、あんたもそのお茶飲み終わったらお風呂入んなさいね」
「はぁい」

ずず。
熱いお茶を少しずつ飲みながらちらりと仁王君を覗き見ればぶつかる視線。
仁王君は頭からタオルを被った状態で、きょとんとした顔をして。
一瞬の後に、少し困ったような笑顔を覗かせた。
その笑顔を見て、顔に血が集まるように熱くなる。
視線を逸らせて誤魔化すようにお茶を急いで飲み干して。

「お風呂、入ってくる!」

バタバタと、リビングを出た。





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