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昼休みの時間、隣の席では机に伏せてうつらうつらと眠そうにしているクラスメイトの姿。
重ねた両腕の上に頬を乗せて、眠そうにゆるりと瞬く。

「永塚さん、眠い?」
「…んん、」

彼女としては頷いたつもりなのかもしれない。
でもそれはただの唸ったような声にしかなっていなくて、それを聞いて笑いが漏れた。
そんなに眠いのなら、無理して起きていようとしなくてもいいだろうに。

「眠いなら、寝てもいいよ?俺が起こしてあげるから」
「…どー、せ、すぐ、起きなきゃいけないし…」

言い終えてから、両腕に顔を埋めて首を横に振る。
その動きが何だか小動物のようで可愛らしい。
と、前の席に座る人物からの視線を感じて目を向ければニタリとした笑み。
嫌な笑い方をする。

「やあねえ。そーんな顔して沙紀のこと見つめちゃって」

語尾にハートマークでもついていそうだ。
そんな彼女を視界におさめて、笑みを向ける。

「なに、羨ましい?」

言ってやれば、少し驚いたように目を丸くして。
それからちょっと冷めたような表情。
あまりそんな表情を向けられることがないから、少し新鮮な気分でそれを見る。

「いや全然。幸村君にそんなん向けられてもこれっぽっちも嬉しくないし。寧ろ何企んでんのかと疑うね」
「酷いなあ。そんなに俺信用されてないの?」

会話を続ける俺の横を通り抜ける、白。
がたんという音と共に永塚さんの前の席に座って、体を捻って後ろを向いて。
テニスをしているくせにやけに白い手から落ちたのは、セロファンを捻って包んだ飴玉。
ぽとりと永塚さんの頭の上に落ちる。

「…んー、」

それまでうつ伏せていた永塚さんがもぞりと動いて、頭の上の飴玉の包みを拾い上げて。
体を起こして、飴玉を目の前に掲げた。

「なに、…ってこれ、」

眠気で焦点があってなかったのだろう。
ぱちぱちと目を瞬かせて、それが何かを認識したとたん。
永塚さんの表情が輝いた。

「わ、やった!これ好き!」
「やっぱな。やるっちゃ」

驚いた。
仁王が、僅かな笑みを顔に乗せていたことに。
今まで永塚さんに素っ気ない態度ばかりとっていた仁王が、そんな風に笑うだなんて。

「ありがとー、仁王君」
「目ぇ覚めたじゃろ」

その二人のやり取りに驚いていたのは、俺だけでは無かったらしい。
ふと顔を正面に向ければ、酷く驚いた顔をしているクラスメイト。
彼女の視線の先には、もう既に正面を向いて頬杖をつく仁王の姿と嬉しそうに飴玉からセロファンを剥がす永塚さん。
永塚さんはセロファンを剥がした飴玉を口の中に放り込んで、満面の笑み。

「…え。ちょっと、沙紀?仁王君となんかあったの?」
「へ?んーん、別に何もないよー?」

ころころと口の中で飴を転がしているのか、右の頬と左の頬が交互に膨らむ。
膨らんだ頬が頬袋に食料を溜め込んだリスのようで、やっぱり小動物みたいだなんて思いながらちらりと視線を斜め前の席に向けた。
欠伸をした仁王が、俺の視線に気付く。
ただ何も言わず視線を向ける俺に、仁王は何の表情も見せない。
感情も何も無い、透明な視線。
先に視線を逸らしたのは、仁王だった。





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