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屋上からかけた電話。
話したいと言った俺に、薫サンもそう考えていたらしい。
微かに震える声で、会って、直接話がしたいと。
そう、言った。
何処に居るのかと問うよりも前に小さく笑うように来ちゃった、といわれて。
あとはもう驚いて、屋上からその姿を確認すると足は勝手に動いていた。
ケータイは耳に当てたまま、急いで階段を駆け下りる。
靴を履き替えるのすらまどろっこしくて、内靴のまま外に出て走る。
昇降口を出ると同時に、無言だったケータイから聞こえた声。
薫サンの声と、微かに聞こえる別の声。
すぐに、別の声が大きくケータイを通して聞こえてきた。
その声にざわりと嫌な予感がした。ぶつりと切られた電話。
はやく、はやくと焦る気持ちとは裏腹に、校門はいまだ遠い場所にある。
やっと近付いた、そう思って名前を呼ぶ。直後。
「最低!!」
聞こえてきた大きな声。
うちの制服を着た女子と、すでに見慣れた姿の薫サン。
その二人のやり取りを見て、何も考えられなくなった。
しっかり見えてしまった。薫サンを突き飛ばす、女子の姿。
薫サンは体勢を立て直せなかったらしい、驚いたような顔で後ろへと倒れていく。
その姿を見て、血の気が引いた。
右手側から向かってくる、大型トラック。
一瞬の後に聞こえてきたバン!という音に、今度は頭の中が真っ白になった。
自分が何を言っているのか、その声すら聞こえずに。
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