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机に伏せて、低く唸った。
ちょうど通りかかったのか、よっちゃんがどしたー、とか声をかけてきた。
「……何かもう、泣きたい」
昨日は、ケータイが着信を知らせることはなかった。
そのケータイは、今は私の手の中。
ずっと手に持っていたせいか、冷たいはずのその四角は私の体温を吸収して暖かい。
「あ、仁王君でしょ。ごめん、仁王君に知らせたのあたしだから」
「…ちょ、はあ?!何で!」
仁王君に知られなければ、こんな面倒なことにはならなかっただろうに。
それなのに、なぜ彼女はわざわざ仁王君に知らせたんだろう。
ていうか、なんで仁王君の連絡先知ってんだ。
「だってあんたら二人みてるとじれったいし。こりゃいい機会だわーと思ってね。ちなみに連絡先はこの間立海行ったときの帰りにね。柳君から教えて貰ったんだよねー」
その言葉と共にウインクされるけれど、全然嬉しくない。
ため息をつけば、ニタリとした笑み。
「何がいい機会だっていうのさ。雅治君なんか怒ってたし、視線とかも怖いし!挙句の果てには知らん、とか言われるし!」
「それで薫は泣きそうになってんでしょ?いー加減に認めなさいって。好きなんでしょ」
よっちゃんの言葉を、私は否定できなかった。
昨日の夜に、散々考えた。ケータイが着信を告げるのを待ちながら、ずっと。
好きという気持ち。私が好きなのは、誰か。
佐藤君と仁王君に向ける気持ちの違い。
薄ら、気付いてはいた。でも気付きたくなかった。
仁王君は年下だ。それが引っかかっていた。
「どーせいらないことで悩んでるんでしょ。余計なこと考えてないで、単純に考えたら?」
お見通しなよっちゃんの言葉に従うように、すとんと。
ふわふわと落ち着きなく漂っていたものがあるべき場所にきちんと収まったような、そんな感じに。
気持ちの整理がつく。
あとはもういてもたってもいられなかった。
ガタンという音をさせて椅子から立ち上がると、ケータイ片手に荷物を引っつかんで教室を出る。
後ろからよっちゃんの頑張んなさいよーという声が聞こえた。
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