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ケータイを握り締めて、机に伏せる。
ぐるぐると脳内を駆け巡る映像に、ため息を一つ。

「なーにため息ついてんだよい」

前の席に座った丸井が、どっから出したのか板チョコをばりばり食いながら聞いてくるが無視を決め込む。
答えるのもめんどい。ぶっちゃけ、考えるのも嫌になってきたくらいだ。
それなのに、脳内からあの映像が消えることはない。

「お前昨日血相変えて帰ってったけど何、垂水とケンカでもしたとか?」
「うっさいぜよ、ブンちゃん」

思わず言い返したら、ニタリとした笑みを向けられる。
……しまった。

「図星か、図星なんだな?へぇ〜ふぅ〜ん」

めんどいからダンマリを決め込むことにする。
目を閉じれば、脳裏に焼きついてしまったあの顔。
今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。
俺だってわからん。なんで、あんなにイラついていたのか。

「にしても珍しいよな、ホント。ベタ惚れじゃね?」
「…誰が誰にベタ惚れじゃって?」

丸井の言葉にぼそりと言い返した。
言葉と一緒に視線もくれてやったが、怖がるでもなくただニヤニヤ。

「だってそーだろい。ケンカして、それでンなグダグダしてんだからよ。本当は話だってしたいんだろい?」

だから今日ずっとケータイ握り締めてる、と。
指摘されて、そういえばそうだと気がついた。
移動中はさすがにケータイを開いたりすることはないが、ポケットの中の重みを意識して。
椅子に座ってじっとしてればボタンを押して履歴を眺めてみたり。

「お前何回か彼女作ってっけど、ケンカしたらあともうアッサリ捨ててたし」

思い返してみればそうかもしれない。
過去に数回女と付き合ったことはあったが、面倒くさい注文つけられて一方的に文句言われて。
そんであっさりオシマイ。今までこんな風に悩んだことなんて一度もない。
俺が気づかなかっただけで、俺の中での薫サンの存在はそれだけ大きいということか。

「さっさと仲直りしろよー」

そう言って丸井は再び新しい板チョコを出してバリ、と噛み付いた。
チョコレートの欠片が机の上にパラリと落ちたのを払い落としてから、ケータイだけを持って廊下に出た。
目指して歩くは、屋上。

「…今更気付くなんて、のう」

自嘲気味にぽつりと呟いた言葉は、誰にも拾われることなく空気に溶けた。




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