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『ぱっとせんのう』
「え?」

その日の夜に、いつもの電話。
少し会話をしたあとに続いた沈黙を破った仁王君の言葉に、私は声を零した。

「何?」
『何か悩み事でもあるんか?』

そんな声しとるぜよ、なんて。
見事的中してるから何も言い返せない。
仁王君恐るべし。

「悩み事っていうか…まあ、うん」
『どうにもハッキリせん物言いじゃの。何なら相談に乗っちゃるぜよ』

仁王君はそう言ってくれているけれど。
果たしてあのことを相談してもいいものなのだろうか。悩むところだ。
私が悩んでいるのが分かったのだろう、電話の向こうでくつくつと笑う声。

『言いとうないなら別に聞かんがの』
「……や、その、ね?…実は告白、されまして」

しどろもどろになりながら、告げる。
一人で悶々と考えていても答えは見えてきそうもないし。
だからと言って、よっちゃんには相談しにくいところだし。からかわれそうだから。

『…ほう。そんで、薫サンはどーしたんじゃ』
「返事は、まだ。いつでもいいって言われて、それだけ」
そして沈黙。というか、年下に相談とか。それっていいのか。
でも仁王君はもしかしたら私よりも精神的に成熟している気がしてならない。

『で、なんて返事すりゃええんかわからんのじゃろ?』
「う、ん。嫌いじゃ、ないんだよ。どっちかといえば好きなんだけど…」
『生々しい話じゃけど、ようはそいつとキスだとかそれ以上のことしたいかどうかじゃなか?』

……うん、本当に生々しいね。
けれど、仁王君の言っていることは間違ってはいない。
付き合うということはキスだってするし、それ以上のことだってまあ…することになるのだろう。
そう考えてしまえば、答えは簡単なのかもしれない。ようは全然想像できない。
こんな簡単に答えがでてしまっていいものなのだろうか。

「…好きってさ、どーいうものなんだろうね」
『俺もよう知らん』

仁王君があっけらかんとして言い放った。

「えー、それホント?」
『ピヨ』

鳴いて誤魔化された。
それを聞いて思わず笑えば、あちらでも小さく笑う声。

『薫サン天然じゃけ、気ぃつけんとイカンぜよ?』
「ん?」
『男共が勘違いするっちゅーこっちゃ』

ていうか、別に私は天然じゃないと思う。
内心仁王君に反論しつつ、黙って聞いておくことにしよう。

『付き合う気がないならさっさと断ったほうがええじゃろうな。待たされればそれだけ相手もイラつくじゃろ』
「はーい。助言ありがとね、雅治君」
『おう』

お礼を言って、それからおやすみの挨拶。
うん、仁王君に相談して良かったかも知れない。
すんなりと出た答えに自分でも納得して、佐藤君には悪いけど明日早速断ることにしようと決意。
でも。佐藤君への感情が恋愛でないというのなら。
仁王君への感情は、どうなんだろう。
告白されたときに逆光になった佐藤君の顔にダブって見えたのは、仁王君。
君の顔だったんです。




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