19
「垂水さーん、隣のクラスの佐藤君が呼んでるよー?」
放課後に荷物を纏めていたら、クラスメイトに名前を呼ばれて。
顔をあげてそちらのほうを見てみたら、廊下にたまに話をする隣のクラスの男子。
ぱちりと視線がぶつかれば、小さく笑ってひらひら手を振る。
「佐藤くんどったの?何かした?」
「んー?ちょーっとな。それより場所移動すんべ」
そう言って歩き出した佐藤君の後ろを歩いて、ついたのは別棟の空き教室。
中に入って教室の机に浅く腰掛けた佐藤君から少し離れた机に座って足をぶらぶらさせる。
「あのさあ、垂水」
「んー?」
佐藤君は窓から差し込む光に背を向けるように立っているから、表情がよく見えない。
それでも、口調はいつもどおり。だから、普段と一緒。ただのくだらない話だと思っていた。
「俺、垂水が好きなんだけどさ。付き合わねえ?」
揺らしていた足が、ガンッという派手な音を立てて机のパイプにぶつかった。
「い!…ったぁぁぁぁ…」
「おーい、垂水ー?大丈夫か、お前」机から降りて、その机に手を突いてぶつけた足を抱える。
そんな間抜けなことをしている私を心配してか、佐藤君が手を差し伸べてくれた。
逆光で翳るその顔に、違う顔がダブって見えた。
「…あ、りがと」
「ま、返事はいつでもいーからさ。ゆっくり考えてよ。できればいい方向にな」
笑って、話はこれだけだと言って先に教室を出て行った。
痣になんないようにしろよー、という言葉を残して。
………こういう場合、誰に相談すればいいんだろう。
こんなことは初めてだから頭が混乱してるらしい。
すぐに思い浮かんだ顔に、自分でも驚いた。
よっちゃんでもクラスメイトでもなくて。
仁王君だなんて。
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