18
以前と同じ、北門の外。よっちゃんと並んで立っていたら、がやがやと少し賑やかに歩いてくる音。
ケータイを弄りながら視線も向けずにいたら、複数の足が視界の隅に映ってそこで動きを止めた。
不思議に思って顔を上げたら。
「…雅治君。随分引き連れてきたねえ」
「スマンの」
苦笑して言う仁王君の後ろには、休憩時間にも見た丸井君の姿。
他にも眼鏡を掛けた人とか、留学生だろうか。浅黒い肌のスキンヘッド。
それに髪の毛がうねってる子。そして、すらりとした佇まいの美形。ノートを開いて、ペンを走らせている。
「丸井が他ん奴等にバラしてな。したらコレじゃ」
「だって見たいじゃないッスか、仁王先輩の彼女!」
ひょっこりと私の近くに顔を覗かせてそういったのは、髪の毛がうねってる子だ。
仁王君を先輩と呼んだから、後輩なのは間違いないだろう。
「初めまして、垂水薫です」
「垂水先輩ッスね!」
ニカッと笑う彼は母性本能をくすぐるとでもいうのか。ぶっちゃけ、可愛い。
隣でよっちゃんも自己紹介。目がキラキラしてますよ、オネーサン。
「このワカメが切原赤也な、こいつだけ2年。んで眼鏡が柳生比呂士、ハゲがジャッカル桑原、ノートが柳蓮二」
一気に紹介された。覚えられるだろうか。
人の名前を覚えるのは苦手なんだけれども。
「別に無理して覚えんでもえーよ」
「…ふむ。仁王、ちょっといいか」
仁王君が柳君だったか、に肩を叩かれて。二人とも一歩離れて何かこそこそと話を始めた。
話の内容は聞こえないけど、何だか仁王君の表情がすごい面倒くさそうに顰められてる。
「垂水先輩って、ニオー先輩と付き合ってどれ位なんすかー?」
「へっ?」
いきなりの質問に戸惑った。
そもそも付き合ってないから、なんて答えていいのか分からない。
「えっと、ん〜…。……ま、まだそんなに長くない、かな?」
「ふーん」
しどろもどろになりつつも、一応答えれば素っ気ない返事。
うん、こんな答えで納得なんてしない…よね。
ちらりと仁王君の方を窺っても、まだ話は終わらないらしい。
「にしても、仁王にしてはちょっと珍しいタイプだと思わねぇ?」
「ああ、それは俺も思ったな」
丸井君が何かを言ったけど、それは私のことを指して言ってるんだよね。
「あいつ結構美人系がタイプって言ってっからさ。垂水はほら、どっちかっつーと可愛い系だろい」
「好みのタイプと実際好きになる人とは違いますからね。仁王君からすれば別のところに惹かれたのではないでしょうか」
…結構好き勝手言われてるんだけど。
なんて返していいのかわからない。
「聞いていて思ったが…綺麗な声をしているな」
「っ!」
いきなり後ろから声をかけられてビクリとする。
仁王君との話、終わったのか。気配がなかったんだけど。
柳君の斜め後ろに立つ仁王君は、すこし疲れたように笑う。
「あ、それは俺も思ったッス」
「そう、かな?」
自分で聞いている声と、人が聞いている自分の声は違ったりするからよく分からない。
首を傾げれば、他の人もうなずいているみたいで。
「色々興味深くはあるが…仁王が怖い顔をしているのでな。後日改めてゆっくり話でも聞かせてほしい」
「へ?」
苦笑してそういう柳君に間抜けな声を返してから仁王君に視線を向ければ。うん、怖い顔というより面白くなさそうな顔をしている。
それを見て柳生君?も、苦笑い。
「雅治くーん?どしたの、怖い顔して」
「…何でもなか」
正面まで歩いていって顔を覗き込めば、逸らされる。
少し子供っぽいそのしぐさが何だか可愛い。
小さく笑えば、むっとした顔をして。
私の手首を掴んで、ズンズンと歩いていく。
「はよう帰るぜよ」
「はいはーい」
くすくす笑いながら腕を引かれてあるけば、少し後ろからも吹き出すのが聞こえてきた。
振り返れば柳君と柳生君、桑原君は笑ってて。丸井君と切原君は驚いたように目を丸くしてた。
よっちゃんはといえば、柳君たちと同じようにクスクスと笑って手をひらりと振る。
皆との歩調が違って、どんどん離れる。
「雅治君、皆は?」
「知らん。放っときんしゃい」
ええーと思ったけれど、仁王君はどうやら本当に知らん振りを決め込むつもりらしい。
大分離れてしまった皆に手を振れば、振り返してくれた。
柳君と話してから不機嫌になったようだけれど、何か嫌なことでも言われたのだろうか。
疑問には思いつつも、とても聞けるような雰囲気ではなくて。
その疑問は、私の中に留めておくだけとなった。
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