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今日の立海の練習は試合形式だったらしい。
違うジャージの人たちがいるなと思っていたら、どうやら高校生と対戦していたらしい。
そしてその結果に唖然。圧勝じゃないか。
隣の友人は凄いだとか言ってきゃあきゃあ言ってるけど、私はただ驚いて言葉も出ない。
試合をするならば、年上である高校生のほうが経験もあって普通は有利なのだろうけれど。
彼らにその普通は通用しないらしい。普通ではない強さ。
「なん、薫サンはビックリして声も出んと?」
すぐ近くで聞こえた声に、びくりと肩がはねた。
驚いて声のした方に顔を向ければ、ニッと笑う仁王君の姿。
友人も仁王君の存在に驚いたのか、目を見開いている。
「ま、さはるくん」
「あ?ニオー、お前ンなとこで何してんだよい」
言葉に閊えながらも名前を呼べば、後ろから初めて聞く声と派手な頭。
仁王君も銀色で派手だけど、赤も派手。
この学校の校則ってどうなっているんだろう。
「なんじゃ、ブンちゃんか」
「んぁ?なにその子ら」
ガムを膨らませながら聞かれて、説明に困る。
だって立海の制服を着てはいるけれど、実際は別の学校の高校生だなんて。
絶対変な目で見られるに違いない。
「俺ん彼女。なー、薫サン」
「ああ、噂の彼女かよい」
仁王君の言葉に、目を見開いた。
は?何?彼女?誰が?
隣の赤い髪の子はへぇ、なんて言いながらじろじろ見てくるけど。
慌てて仁王君の裾を引っ張って。
「ちょ、雅治君?彼女って、何?!」
「女除けに、ちょっとな。フリだけしちょってくれん?」
こそこそと会話をすれば、頭の後ろで手を組んだ赤い子が仲良さそー、とか言ってるのが聞こえた。
悪くはないからそこは否定しないでおくけど。
「ブンちゃん、俺の彼女の垂水薫サンな。薫サン、こっちが俺のクラスメイトでチームメイトの丸井ブン太じゃ。またの名を丸いデブン太。あとは普通にブタとかでもよかよ」
「仁王てっめ、何つったコラ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ丸井君は年相応で可愛い感じだ。
仁王君に色々言ってるのはなんだか微笑ましい光景ではある。
けれど。それよりも私が一番気になるのは。
少し離れたところから向けられる女の子の視線。
やっぱりというか突き刺さるようなもので、正直いい気はしない。
こっちを見ながらヒソヒソ話をしている子もいるし。
「そいやニオーの彼女の友達?そっちの名前聞いてねえけど」
よっちゃんはといえば、話を振られたのにビックリといった顔。
でも顔を真っ赤にさせて自己紹介をしてる。
…もしかして友人の狙いはこの丸井君とかなんだろうか。
「ねえ仁王くん、その人たち誰?」
媚びる様な甘ったるい口調で問いかけてきたのは、先ほどまでフェンス近くから私たちのほうに鋭い視線を向けていた子の一人。
茶色みがかった髪の毛を緩く巻いて、化粧をしている。
…これで中学生だっていうから凄い。私より大人っぽくないですか。
「俺ん彼女とそのダチじゃ」
「…前見た人とは違うのね?」
ちらりと私の方に視線をむけて、薄く笑う。
美人なだけに、その笑いがとても怖い。
「お前さんには関係のないことじゃろ」
ひどく冷たい声が聞こえて、驚いて仁王君の顔を見上げた。
仁王君も薄らと笑っていたけれど、視線だけは刃物のように鋭い。
「俺にはこいつがおるんでな。もう付き纏うんじゃなか」
ぐいと肩を抱き寄せられた。
急な展開に驚いて目を見開けば、私の視線の先でその子が悔しそうに顔を顰めた。
そのまま無言で踵を返して、こちらをちらりとうかがってから何処かへと歩いていった。
「…雅治、君?」
ちらり、と視線を隣に向ければ。
顔をしかめて深いため息をついていた。
私が見ていたのに気づいたのか、気まずそうに小さく笑って。
「巻き込んでスマンのう。付き合えって煩くて敵わんくてな」
「それは、いいんだけど…」
最後に向けられた視線。それが、凄く気になった。
憎しみにも似たものを孕む視線だった。
背筋がざわりとするような。
「うおーい、仁王。そろそろ休憩終わりだってよ」
「おー。薫サンこのあとどーするん?最後まで見てくなら送っちゃるけど」
声を掛けてくれた丸井君に一声返して、私に問いかける。
どうしようかとよっちゃんに視線を向ければ笑みを向けられた、んだけど。
それってどーゆー…。
「どうせなら最後まで見てこーよ」
「…だって」
へらりと笑えば、仁王君の手が伸びて頭をふわりと撫でていった。
少し離れたところから悲鳴が聞こえたのは知らんぷりでもしておこう。
「じゃ、この間んトコで待っとって」
「ん。頑張ってねー」
ひらりと手を振れば、ふっと笑って手を振り返してくれた。
腕をツン、と突かれたのに横を向けば。
「見せ付けてくれるじゃなーい?」
「…や、だからそーじゃないんだって」
苦笑して言ったら、素敵な笑顔。
というか、何か企んでるような顔と言ったほうがいいのだろうか。
「一緒、居てもいーわよねえ?」
「………ドーゾ」
拒否なんて、できるわけがない。
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