16
「あ。そういえば薫さあ、制服どうした?」
昼休み、教室でよっちゃんとお弁当を食べていたら思い出したように聞いてきた。
「制服?」
「だから、この間貸したじゃん。立海の」
言われて思い出した。
そういえば、この子から立海の制服を借りていたんだった。
「どうしたって、家にそのまま置いてあるよ?」
「じゃあさ、今日またあれ着ていこうよ。立海いこ!」
満面の笑みで言われて、またかとため息。
行ってもいいんだけど、勝手に行ってまた仁王君に怒られたくはない。
「…ちょっと、聞いてみる」
ケータイを開いて、メール作成画面を出す。
短くメールを打って送信して顔を上げれば、にんまりと笑う友人の顔。
「相変わらず仲良しでうらやましいわねえ」
「もー勝手に言ってれば…」
否定するのにも疲れて、そのまま流した。
どこまで疑うのやら、この子は。
ケータイを机の片隅に置いて、再びお弁当を食べる。
ウインナーをほおばったところで、ケータイが唸った。
「何て?」
「…オッケー出された…」
箸を握り締めてうなだれる。
本音を言えば、拒否して欲しかったところなんだけれど。
立海の制服着てくるならって、なんで?
仁王君て、たまによく分からない。
「決まり!じゃあ学校終わったら着替えて駅前集合ね」
満面の笑みでそう言ったよっちゃんは、もうご機嫌だ。
鼻歌歌いそうなくらいに。
対する私は、ため息。
何が嫌だって、あの制服着るのが嫌だ。コスプレ…。
***
私の隣には、立海大附属中の制服を着てご機嫌なよっちゃん。
うん、デジャヴ。
立海の敷地に入ってテニスコートを目指せば、そこにはずらりと女子の姿。
テニスコートの中ではまだ練習は始まってないっていうのに。
どこぞのアイドルグループみたいだよね、本当。
まだ練習が始まっていないからと少し離れたところで傍観していたら、ポケットの中で着信を告げるケータイ。
パカリと開けば、メールが一通。
送信者は「(`.∀´)」。
……仁王、くん?
内容は、休憩に入ったらそっち行くとだけ。
そっち?そっちってどっち。まさかとは思うけど、こことかじゃないよね?
ちょっと嫌な予感に顔が引きつる。
隣のよっちゃんは私の表情が気になったのか、私の視線の先にあるケータイの画面を覗き込んだ。
「どしたの…ってマジ?うっそ、やった!」
よっちゃんは喜んでるけど。私は喜ぶどころじゃないです。
むしろ嫌な予感がビシバシする。
うーん、痛い視線を受けそうだ。
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