10
仁王君と一緒に出かけた日から早1週間が経過した。
あの日から、仁王君から毎晩のように電話がかかってくる。
どうやら仁王君はメールよりも電話の方が好き、らしい。
話す内容は大体が今日の出来事だったりするのだけれど。
それが部活のことばかりだから、よほど部活が好きなのだろう。
「ねえ、に、…雅治君て電話ばっかりだよね。メール嫌い?」
何となく、聞いてみた。
電話をするのもいいのだけれど、かけてくるのはいつも仁王君ばかり。
通話代、凄いことになってそうなのだけれど。
『メールが嫌いなわけじゃなか。ただ、薫サンとは電話で話したいて思っちょるだけ』
「へ?」
思わず、変な声が出た。
『メールて素っ気無い感じじゃろ。時間もかかるし。そんなんじゃったら電話したほうがええ』
「ま、確かにそれはあるねー」
納得する。
メールは確かに素っ気無い感じはある。
それでも今は絵文字だとかデコメがあるからそう感じることは減ったけれど。
「でも、うん。私も電話で話してたほうがいいかな。雅治君の声聞いてると、落ち着く」
そう口にして、ふと気付く。
何言ってるんだろう、自分は。
嘘ではない、けれどまさかこんなポロリと言ってしまうだなんて。
電話の向こうの様子が気になって耳を澄ましてみるけれど、聞こえてくるのは静寂。
『………』
「…雅治、君?」
何も聞こえてこないことに不安になって呼んでみる。
『…っあー、スマン』
「んーん、別にいいけど。私なんかマズいことでも言ったかな。それとも疲れてる?」
夜も遅い。
それに、仁王君は部活をしているから疲れていて当然だ。
電話の途中で寝てしまってもおかしくは無い。
『あー、そうじゃなか。そうじゃないんじゃ』
「?そう?」
繰り返された否定の言葉に、首を傾げる。
『それより、薫サンのが眠いんじゃなか?』
「あは、そうかも」
否定はできない。
実際、眠気で思考が少し鈍くなってきている。
「よく分かったね」
『少しな、眠そうな声しちょる』
「え、そう?」
眠さを声に出してたつもりはないのだけれど。
それにしても、良く気付いたものだ。
『薫サン、結構声に出易いからのう。俺には一発でバレるぜよ?』
楽しそうに、小さく笑いながら言う。
そんなに分かりやすかっただろうか。
「そんなつもりないんだけどねー」
『俺以外の奴が分かるかはまた別じゃがの。さて、もう遅いし薫サンも眠そうやし。今日はここまでにしとくかのう』
ん、と頷く。
そして、首を傾げた。
声に出易いと言ったのは、仁王君だ。
でも、仁王君以外の人が分かるかはまた別?
どういう、ことだろう。
『お休み、薫サン』
「おやすみ」
耳に当てた携帯電話から聞こえた、優しくて穏やかな声に返事をして。
ぷつり、と通話を切る。
携帯電話を枕の脇に放って、仰向けに寝転がる。
通話を切る前。寝る前の挨拶を交わす前の、仁王君の言葉。
まるで、謎かけのようだ。
「どういう、意味…?」
ぽつりと呟いてみるけれど、答えが返ってくるわけも無い。
グルグルと考えている間に、眠気で瞼が重くなる。
いつの間にか、私はそのまま眠りに落ちていた。
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