05
「は、早く来すぎた…」
眠りが浅かったのか、やたらと早く目が覚めた今朝。
いつもより早めに登校してみたら、構内に生徒の姿がほとんど見当たらない。
「こんな時間に来るの、朝練ある人くらいだよねー…」
どうせSHRが始まるまでの時間は暇だし、構内をぶらぶらと歩いてみる。
本当に適当に歩いていたら聞こえてきた音。
「…あ、テニスコート」
少し先に、テニスコートが見えた。全国大会三連覇を目指す彼らは朝練にも力を入れているらしい。
放課後のテニスコートは近寄ることすら難しいから、練習するその姿を間近で見たことはない。
朝練だったらギャラリーも少ないだろうし、見ていこうか。
そう思って歩いていった先のテニスコートに、いつものギャラリーはいない。
「柳が頑張ってる」
コートの中に、見慣れた姿。レギュラーだから強いのは分かっていたけど、テニスをする姿を見るのは数年振りだ。
打ち合っているのは誰かと相手コートに目を向けて、止まった。
「仁王、君」
銀色の髪を靡かせてボールを追う姿に目を奪われる。
教室で見るよりもずっと楽しそうな顔。
仁王君がテニスをする姿を間近で見るのは、初めてだ。
「北河じゃん。こんな時間に見学かよ」
不意に声をかけられて、びっくりした。
声のした方に視線を向けると、教室で見慣れた姿。
「あ、丸井君。おはよ。ちょっと朝早く起きちゃったからね。暇だからブラブラしてたの。丸井君は打ち合いしないの?」
「交替したとこ。柳と仁王もそろそろ終わる…と、終わったみたいだぜぃ」
気付いたように言う丸井君の視線を追うと、タオルを片手にこちらに歩いてくる二人の姿。
「綾か。こんな時間に珍しいな」
「おはよ、柳。早起きしちゃった」
ちょっと話をしていたら感じた視線。ん?と思って視線を巡らせると、無表情の仁王君。
「お…はよ」
ご機嫌斜め、なのだろうか。ちょっとムスっとした顔。
「そういえば仁王君がテニスしてるの、初めて近くで見たよ。楽しそうにやってるよね」
「楽しいからやるんじゃなか?普通は」
「ごもっとも。今度試合見に行っていい?」
そう聞いたら、思いっ切り渋い顔された。
嫌なのかな。嫌なのか。
「え、駄目なの?」
「…駄目っちゅーか、あんま、見られとうなか」
何でですか。
ちょっとショックを受けてたら、隣で話を聞いてた柳が笑っててちょっとムカつくー。
訳知り顔ですか。
「いずれ分かる。…と、弦一郎が睨んでるな。そろそろ練習に戻るぞ」
「あ、邪魔したかな。ごめん。頑張ってね」
ひらひら手を振ると、皆それぞれ返事してくれた。
ちょっと仁王君の機嫌悪かったのが気になるけど、得した気分。
それから少しだけ練習を見てから、教室に向かった。
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