03
「蓮二くんいらっしゃいますか?」
ちょっと久し振りに訪れた柳の家。かれこれ半年くらい来てないかもしれない。
相変わらず綺麗な家に、ちょっと溜め息。羨ましい。
「綾か。今日は悪かったな、置いて帰って」
「大丈夫。それよりこれ、部室の鍵。仁王君から預かってきたよ」
ポケットから銀色の鍵を出して、柳の手に乗せる。
「そういえば、用事があるって言ってたけどもう大丈夫なの?」
もうすでに家でくつろいだ様子の彼に、ちょっと疑問を持つ。
テニス部の部室にいたのはせいぜい20分から25分くらい。
「ああ、あれか。あれは嘘だから気にしなくていい」
「は?」
柳の嘘だという言葉に、本日3度目のフリーズ。なんでそんな嘘をつく必要があったというのか。
「少し焚きつけてやろうかと思ってな。仁王とはどうだった」
「ちょ、え、何言ってんの柳」
少し動揺する。誰にもバレてないはずなのに。バレてなかったと、思ってたのに。
「お前が仁王を好きな確立79%。自分ではうまく隠してたつもりだろう」
うかつだった。自分の幼馴染を甘く見ていた。
そういえば、この人はそういう人だった。
「どうせ隠すの下手ですよ。もー、余計なことしなくていいから」
「よほど注意深く見ていない限りは気付かれないだろう。俺が気付けたのもお前と幼馴染だからだろうしな」
ちょっとムッとして、もう帰る!と言って背を向けると後ろからは気をつけて、という声。
今後一切、余計なことはしてくれなくていいんだけど。
***
翌日、少しドキドキして登校した学校はいつもとあまり変わりはなく。
ただ一つ、仁王君・丸井君が挨拶をしてくれるようになったということを除いて。
朝、教室で友達と話をしていたら仁王君・丸井君と目が合って。
仁王君は小さく合図してくれて、丸井君は思いっきり手を振ってた。
そんな丸井君は仁王君に殴られてた。痛そうでした。
「ね、綾。あの二人となんかあったの?」
私に挨拶した二人に気付いた友達がニコニコと笑って聞いてくる。
うん、なんか笑顔が輝いてる。
「期待してるようなことは何もないけど」
「えー。何も無いってことはないでしょ?」
まあ、この子なら人に言いふらすことはしないし。
ちょっと躊躇って。
「昨日ね、仁王君にほんの少し勉強教えてもらっただけ」
「何かあったんじゃないのよ」
さらに笑顔が輝いてます。ニッコニコだよこの子!
「なんでそんな事になってんのか、洗いざらい吐こうね?」
あれ。なんか笑顔なのに纏うオーラが黒いです。正直、ちょっと怖い。
…この子って黒属性だったっけ。
***
「うわー羨ましい。んで、お礼どうすんの?」
「いらないって言われたけど、そうもいかないよねぇ。無難にお菓子でいいかなとか思ってクッキー焼いてきちゃった」
ちなみに甘いもの苦手そうだから甘さ控えめで作ってみた。
そう言ったら、エライといわれて頭を撫でられた。
「うんうん、噂だと仁王君お菓子は甘さ控えめなのだとOKらしいから。ちょうど昼休みだから、渡してきちゃったら?」
はい、と言って手渡される紙袋。
ありがとうと受け取ったのはいいけど、どこから紙袋取り出したのこの人!
「はいはい、もたもたしてると昼休み終わるよ?いってらっしゃーい」
「あ、クッキー焼き過ぎたからコレあげるね」
紙袋からクッキーの袋を出して友達の手に乗せて。
何か言われる前に教室を出た。
…そういえば、仁王君てどこでお昼食べてんだろ。
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