07
「葵ー!昨日大丈夫だったの?体調良さそうだったのに倒れたからビックリしたよー」
学校へ行ってまずかけられた言葉がこれだった。
自分の席に座ってごめんと謝る。
心配をかけてしまったらしい。
昨日倒れてから今朝までの記憶が全くと言っていいくらいに無い。
「今日は大丈夫!体育無いし、ね?」
「そう?」
なら良いんだけど、と眉を下げて言う。
「具合悪くなったらすぐ言ってよ?」
「うん。よっちゃんアリガト!」
にこりと笑って御礼を言えば、ぐりぐりと頭を撫でられた。
隣に人の気配を感じて視線を向ければ、眼鏡越しに向けられた優しい眼差し。
「あ、柳生君おはよう」
「おはようございます。今日は大丈夫ですか?」
みんながみんな、同じ事を聞いてくる。
心配かけてしまったのが申し訳なく、でも心配してくれたのが嬉しい。
「うん。昨日は柳生君の目の前で倒れちゃったんだもんねえ。ビックリさせてゴメンね」
「いえ、お気になさらずとも結構ですよ。それより、仁王君にお礼を言ったほうがいいかもしれませんね。倒れた貴女を抱きとめて保健室まで運んでくれたのは彼ですから」
目が丸くなるとは今の私の事を言うのだろうか。
昨日に引き続き出てきた『仁王君』。
私の夢にも出てきた人。
「…ゴメン、『仁王』君て知らないんだけど」
「おや、そうでしたか。では後ほどご紹介いたします。私のダブルスのパートナーなんですよ」
ダブルスのパートナーということは、彼もテニス部のレギュラーらしい。
凄いなあと思っていたら、隣に立っていたよっちゃんから気をつけなさいよ、という言葉。
その意味が分からずに首を傾げていたら、柳生君が困ったように小さく笑う。
「彼は人を騙すようなプレイが得意で、『コート上の詐欺師』なんて呼ばれているんですよ」
「『コート上』だけで済んでないから気をつけろって私は言ってんの、柳生」
ますます意味が分からない。
「アイツはねー、普段から人を騙して楽しむような人間なの。それに女遊びも激しいみたいだし」
「そこについては私も散々注意はしているんですよ」
困ったものです、と言って眼鏡を押し上げる柳生君。
柳生君を困らせるほどの人だ、私も注意しておくことにしようと密かに思った。
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