05
ぼんやりと木陰からグラウンドを眺める。
私の視線の先ではクラスメイトと隣のクラスの生徒がグラウンドのトラックをグルグルと走っている。
先頭を切るように走っているのは、柳生君に真田君。
走り出してまだ2、3周しかしていないのに既に最後尾の生徒を追い越している。
柳生君と真田君のすぐ傍を走る生徒がいるのに驚いた。
それが、とても目立つ髪をしていたことに更に驚く。
赤と、銀色。
銀色の髪をもつ男子生徒が走るたびに、長い襟足がフワフワ揺れて尻尾のようだ。
それを見て、ん?と思った。
銀色の髪。赤いゴムで纏めた長い襟足。
昨日の夢に出てきた『仁王雅治』と同じ特徴。
まさか。
居るはずがない。
だって、彼は私の夢の中の住人のはずだ。
現実にいるはずが、ないのだ。
「杉崎ー、ちょい悪いんだけど職員室までひとっ走り行ってくれるか」
「また忘れ物ですかー、センセー」
見学していた私に、ジャージを着た先生が声をかけてきた。
この先生は忘れ物が多い。
出席簿だの笛だのノートだのと忘れ物をしてきては見学している私にとりに行かせる。
「ノートなんだがな」
「いつものですか」
普通よりも一回り大きいA4サイズの大学ノート。
どうやら評価に関することを記入しているらしく、その表紙の角には赤ペンでマル秘と書かれている。
「おう、くれぐれも中見んじゃねーぞ」
「その前にセンセーの字が読めないんで安心してください」
行ってきまーす、と先生に背を向けたところでソレどういう意味だという声が聞こえてきたが、無視。
のろのろと歩いて職員室のある棟を目指した。
***
「はいよ、センセ」
「おう、ワリーな」
職員室からノートをとってきて、先生に手渡す。
先生は走り終えた生徒に声をかけているところだったらしく、その足元には座り込む男子の姿。
そのすぐ傍にも数人の男子。
「柳生君、もう走り終わったの?早いねえ。真田君も早いんだ?やっぱ部活してるから?」
「ええ。テニスでは持久力も求められますからね」
特に汗をかくでもなく、少し息が乱れた程度。
隣に立つ真田君もさして疲れた様子はない。
腕を組んで当然だ、と言う姿はとても中学生のそれとは思えないんですが。
「丸井は何をへばっているんだ、これしきのことで」
「へばってねーよい!あっちぃんだって!」
真田君の視線が下の方を向く。
その視線を追おうとしたところで、視界がぐにゃりと歪んだ。
「…っあ、ヤバ…」
ブラックアウト。
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