02




目が覚めるとそこは見慣れた保健室だった。
いつものように貧血を起こして倒れたのだろう。
膝の下に置かれていた丸めたタオルをベッドの隣の籠にかけて、その籠からネクタイとブレザーを取り上げる。

「目が覚めたなら利用票記入してね、葵ちゃん」
「了解でーす」

私が動いたのが気配で分かったのだろう。
保健室の常連だから特に様子を見るでもなく気軽に声をかけられる。
ボタンを留めながら返事をして、カーテンを開けば白衣の先生。

「今何時ですか?」
「んー、5時50分ねえ。ちゃんと鉄分摂ってんの?今月2回目じゃない」

倒れたのは今月で2回目だが、貧血を起こした回数はその3倍は軽く上回る。
そんな私を心配しての言葉なのだろうが、貧血になるものは仕方ない。
食事を改善したところで体質というものも関係しているのだろう。
私の貧血は一向に良くなる気配を見せない。

「ほうれん草とか食べるようにしてるんですけどねー。サプリも飲んでますし」
「改善無理なのかしらねえ。ま、気をつけて生活して頂戴ね」

そんなやり取りをしながらカリカリと利用票の空欄を埋めて提出。

「じゃあ先生さよーならー」
「はいサヨウナラ。もう大分暗いから気をつけるのよー」

教室から荷物を持ってきて、昇降口に向かう。
歩きながら、今日見た夢を思い出す。
妙にリアルな夢。夢の中のあの男子生徒が最後に言った言葉。
『また、今度な』。
まるで再び会えることを確信するかのような言葉だった。
彼は、夢の中だけの存在。
二度も同じ人物があの夢に出てきたことはない。会う確立は低いだろう。
だからこそ、あの言葉が気になって仕方ない。
靴を履き替えて校門に向かう途中、あの夢で会った男子生徒と同じ銀色が見えたような気がした。




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