08




5キロの肥料を抱えて行った先にあったのは、一軒の家。
外観としては一般的なつくりの家なのだけれど、そこはとても目を惹いた。
理由は単純明快なのだけれど。
木が青々と茂っていて、花が溢れるように咲き誇っているから。

「あがってく?お茶くらい出すよー」

その家をぼんやりと見ている俺に気付かないのか、榎本は鞄から鍵を出して玄関のドアを開く。
一歩玄関に入ったところで動かない俺を不思議に思ったのか、首を傾げた。

「仁王君?どしたの」
「…おぉ、何でもなか」

ガーデニングとか、花とか木とか。
全然興味の無い俺ですら圧倒されて見入ってしまうほど。
それほどこの家の庭は色鮮やかで、生命力を感じさせられた。

「…お邪魔します」
「あ、肥料は玄関に置いてていいからねー」

家には誰もいないのだろうから特に気を使う必要もないのだけれど、そこは初めて入る場所だ。
そう気軽に入れるわけも無くきょろきょろと玄関を見回していたら、中から榎本が声をかけてきた。
言われたとおりに玄関の隅に肥料を置いて、上がらせてもらう。
声のした方に進めば、榎本は薬缶にお湯を沸かしながらお茶の準備をしていた。

「庭すげーとか思ったんじゃが…家の中も凄かね」
「そお?」

凄いと言いたくもなると思う。
家のあちこちに大小様々の鉢植えが置かれている。
その他にも花瓶に生けた花なんかもあって、家の中までもが植物で溢れているような。

「適当に座ってていーよ。もうお茶も出来るし」
「おう」

ラケットバッグを下ろして、ソファに適当に腰掛ける。
目の前のテーブルにも、小さな鉢植え。

「お待たせ。ハーブティーなんだけど、飲める?」
「あんま飲んだことは無いが、まあ平気じゃなか?」

目の前に出されたティーカップから立ち上る湯気からは、清涼感のある香り。
流石にこれくらいなら、俺だって名前くらいは知っている。

「これ、ミントか?」

指差して聞けば、正解と笑って俺の向側に座る。

「ミントは結構ポピュラーなハーブだからね。すっきりした香りだから夏は結構使うよ」
「もしかしてこれ、お前さんが育てたとか」

まさかと思って聞いたら、当然という言葉が返ってきた。
てことは、これは買ってきたやつではない?

「一応無農薬ですので問題はナイよ。ちゃんと洗って使ってるし」
「…や、別にそう言いたかったわけじゃないんじゃが」

自分で育てて、ということにビックリだ。
というか、育てたハーブをこうして使うあたり凄いと思ったり。
幸村もガーデニングが趣味だとは言っていたが、ハーブを育ててこうしてお茶にしたという話は聞かない。

「ハーブもこうしてお茶にしたり、普通に食べられるものもあるからねえ。裏の方で結構育ててるんだ」

種類も多いよと言って、何を植えているかを指折り数えながら口にする。
ラベンダーとかローズだとかは分かるが、その他はさっぱり。
どんな植物なのか、色も形もわからない。

「実はそこらへんに普通に生えてるタンポポもハーブだったり。シソだってそうだし」
「え、タンポポ食えるんか?」

聞いてビックリな話題だ。
今までただの雑草ぐらいにしか思ってなかったが。

「タンポポコーヒーとか。自然食とか言って、そういう食品店で売ってたりするよ?」

話を聞き始めると、今まで知らなかったことを聞けたりして。
幸村がこいつのことを面白いと言ったのがわかった。
確かに、榎本と話をしていると面白いことが多い。




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