06




昼休みに、榎本に借りた数学の教科書片手に隣の教室を覗いてみた。
榎本は教科書を借りた時と同様、後ろを振り返って幸村と話をしていた。
その手には、野菜ジュースの紙パック。

「榎本」
「んえ、ああ仁王君」

ちょうど野菜ジュースを飲もうとしていたらしい。
銜えていたストローから、小さな音が聞こえた。

「これ、サンキューな」
「どーいたしまして。あ、におー君ちょっちいい?」

借りていた数学の教科書を返すが、それだけで済まなかった。
にっこり笑った榎本に呼び止められた。

「なん」
「1つお願いがございましてぇー」

華奢な手が、俺の手首をパワーリストの上から掴む。
榎本の満面の笑みに嫌な予感を覚えて視線をずらせば、視界に入ってきたのは俺と榎本のやり取りを笑顔で見ている幸村の姿。
何か知っている顔だ。

「放課後、私の買い物に付き合ってください」
「ムリ」

後ろにハートマーク付きそうなくらいに良い笑顔で言われたけれど、きっぱり断る。
放課後とか無理に決まってる。何てったって部活があるのだから。
幸村だってそれくらい知っているだろう。というよりも、知らないわけがない。

「仁王、行っていいよ」
「……幸村?」

今まで無言を貫いて、ただ笑顔だった幸村が口を開いた。
開いたかと思えば、俺の予想を裏切る言葉がその口から飛び出す。

「部活は今日はどうせミーティングの予定だったし。仁王が居なくたって問題はないよ」
「幸村あのな、」

いくらなんでもそれは酷くないだろうか。
というよりも、問題があるのはこっちのほうだ。
俺にだって予定っちゅーもんがある。

「なに?俺の言ってることが分からない?」
「……行かせていただきます」

行かなければ俺の命が危なそうだ。




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