04
「…あれ、今日も来たの」
相変わらずの麦わら帽子、首のタオル。
砂利を踏む音で気が付いたのか、俺が声をかける前に振り向いた。
「今日は用事じゃ。呼び出されてのう」
今日はどうやら花壇の花の植え替えをするらしい。
枯れて茶色くなった、俺には名前すらわからない花を引っこ抜いていた。
「もしかして告白とか?」
彼女はどうやら冗談のつもりで言ったらしい。
ニヤリと笑って言ったその言葉に頷いて返せば、目をぱちくりさせている。
「え、マジっすか」
「マジっすよ」
聞いてきたのは榎本だというのに、またもふーんという気のない返事が返ってきた。
「あの、仁王先輩!」
「…ん?ああ、」
声をかけられて振り向く。
そこにいたのは、ちっさくて少しぽっちゃりした感じの女子。
俺を先輩と呼んだからには後輩だろう。
「お呼びたてしてすいません」
「んで、話って何じゃ」
俺の後ろ、足元に蹲ってもくもくと作業をしている榎本には気付いていないのだろう。
そいつの視線は、真っ直ぐに俺だけに向けられている。
「あの、好きです!彼女、居ないんだったら…私と付き合ってもらえませんか?」
「今はそーゆーの、興味ないんじゃ。悪いな」
考えるまでもなく、断る。
そもそも名前も知らないようなやつと付き合う趣味はない。
まあ名前を知っていようが、今は誰とも付き合うつもりはないのだが。
「あの、でも。興味ないっていうことは、彼女いらっしゃらないんですよね?」
溜め息。
しつこいタイプの女子だったらしい。
「居らんな。じゃが、今は必要ないから居ないだけじゃ。たとえ誰であろうと彼女にする気はないぜよ」
こういうタイプは先に必要ない、いらないということを伝えた方が効果的だ。
きっぱりとそう言ってやれば、グッと言葉に詰まって視線を足元に落とした。
「…そう、ですか。わかりました。失礼します」
告白してきた女子が去ったのに気付いたのか、それまで無言で作業をしていた榎本が顔を上げた。
「マジでモテるんですか」
「だからマジっちゅーたろ」
どうやら信じていなかったらしい榎本の台詞にちょっと苦笑して返す。
そういえば、この場所は告白スポットだ。
そんな場所で彼女は作業をしていて、邪魔者扱いをされたことはないのだろうか。
「榎本、お前さん…もしかして、よく告白現場に居合わせたりするんか?」
再び顔を下げて作業を始めていた榎本を見下ろせば、作業をしながら。
スコップで土を掘る音が微かに聞こえる。
「まあ、たまには。でも大体告白する人は緊張して周りを見る余裕がないのか、私に気付くことはあまりないんだけどね。黙っていれば、の話だけど」
別に好きで告白現場に居合わせているわけじゃないとでも言いたげだ。
麦わら帽子の下でどうやら溜め息をついたらしい。
はあ、とか聞こえた。
「まあ、そこら辺特に興味はないし。顔見たって誰だかわかるわけじゃないし」
「…お前さんの交友関係狭そうじゃのう」
丸井や赤也とは大違いだ。
あいつ等は無駄に交友関係が広すぎる。
まあ性格のせいなのだろうけれど。
俺はそんなに広いわけではないが、きっと榎本ほど狭くはない。
「しつれーな。浅く広くじゃないだけですよーだ」
「じゃあ狭く深くてヤツか?」
そう聞けば、まーねとだけ。
そしてまたザクザクとスコップで土を掘り始める。
あ、がきんとか聞こえた。
石にでもぶつかったか?
「それより、時間ヘーキなの?」
「げ」
一応丸井に伝えてはあるが。
それでもきっと真田あたりが煩そうだ。
ケータイで時間を確認すれば成程、そろそろまずい時間だ。
「じゃーの」
麦わら帽子を見下ろして言えば、無言で軍手をはめた手をヒラヒラ振る。
もう片方の手では、先ほどの音の正体であろう石を掘り出しているところだった。
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