02




「…そう上手くはいかんか」

ぼそり、と誰に言うでもなく呟く。
放課後にあの麦わら帽子の女子を見かけて数日。
こうして時間を見計らって校舎裏に来てみたものの、そう都合よく居てくれるわけもなく。
期待は空振りに終わった。
溜め息をついてくるりと方向転換したときに、背後の茂みがガサリと揺れた。
野良猫だろうかと思って視線をそちらに向けて、止まった。
茂みに隠れるように、麦わら帽子が見えていた。

「お前さん、そこで何しとう」
「ふへ?」

声をかけて返ってきた返事に、少し笑いそうになる。
なんだ、ふへ?って。そんなマヌケな返事があるか。

「あー、草むしり?」
「は?」

返ってきたのは、何故か疑問系。
ていうか、何だ草むしりて。

「だから、草むしり。何してるって聞いたのそっちじゃん」
「何でそんなことしとう」

確かに聞いた。聞いたが、何で草むしりなんて事をしてるんだ。
そんなのは業者に任せればいいだけのことだろうに。

「何でって、だって私園芸部だし」

ビックリだ。
園芸なんて部活が存在していたことにもだが、その部に部員がいたということにも。
部活紹介でそんなの見たことないような気がする。

「園芸部なんてあったんか」
「あったんですぅー。案外と皆知らないんだよねえ。最近徐々に人数増えてるんだけどな」

人数増えてるってどんだけだ。
そうツッコみたいのは俺だけじゃないと思う。

「そりゃ失礼したのう。…お前さん、名前はなんちゅーんじゃ?」
「3C榎本佳奈。で、そっちは名乗らないわけ?」

名乗らせておいてそれは無いよねえ、と笑う。
自己紹介を求められるのは久し振りだ。
最近はテニス部レギュラーになったとあって、それなりに名前が知られるようになったから。
自己紹介をするまでもなく、相手は自分の名前を知っていた。

「3B仁王雅治じゃ。Cちゅーたらウチの幸村と同じクラスか」
「え、幸村君?」

ビックリしたように言うから、どうかしたのかと首を傾げる。

「え、幸村君て部活入ってたの?何部?」
「…俺はそれも知らんお前さんにビックリなんじゃが」

いや、驚きもするだろう。
だってあの幸村が何部なのかすら知らないとは。
俺の名前を知らないのはまあ良いとして。
あの幸村を。
え、マジでか。

「え?何、そんなに有名?」
「知らんほうが逆におかしいぜよ」

俺の言葉に、へえ、とだけ返して。
また視線を落として草をブチブチ毟りだす。

「で、何部なの?」
「…テニス部」

ブチブチ草を毟る手が止まった。
ぱっと顔を上げて、目をパチパチさせて。

「は?」
「じゃから、テニス部じゃって」

繰り返してそう言えば、今度は目がまん丸に見開かれた。
なんだコイツ、反応がいちいち面白い。

「ええ?!うっそ、あんなに細くてあんなに白いのに運動部?!いやいや、ありえないでしょ!」
「信じられんなら見に来ればええじゃろ」

百聞は一見にしかず。
信じられないと言うなら聞くよりも見たほうが早い。

「え、それはいーや。まだ草むしり終わってないし」
「…ほーか」

信じられないが、別にそれを確認するほどの興味はないらしい。
やっぱ、変なヤツだ。




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