01
放課後、校舎裏に呼び出されて行ってみれば、そこにいたのは1人の女子生徒。
でも格好がおかしかった。
だって何で麦わら帽子?何で首にタオル?
何より軍手をはめた手が握るのは、水が流れ出るホース。
え、呼び出したのコイツ?
そう不思議に思いながらも声をかけようとしたところに、背後からかけられた控えめな声。
振り向けばそこに立っていたのは、顔を真っ赤にしたそれなりに可愛い女子生徒。
どうやら俺を呼び出したのはこっちだったらしい。
彼女は俺の背後に麦わら帽子の女子生徒が立っているのに気付かないらしい。
そのまま一言、好きですと告白された。
「悪いんじゃが、今は誰とも付き合うつもりは無いんじゃ」
多少罪悪感はあるものの、断る。
だって今は恋愛に感けるような暇は無い。
今年はこの強豪立海大のレギュラーになったのだから。
俺の言葉を聞いたその女子は、ちょっと泣きそうな表情で。
でも俺に精一杯に笑ってみせるから、更に罪悪感。
嘘はついてない、悪いことをしたわけではない。
「…わかりました。テニス、応援してます。頑張って下さいね」
それだけ言って去っていく彼女の背中を見送ってから、ちらりと後ろに視線を走らせた。
いつの間にか、ホースから流れ出る水の音は止んでいて。
麦わら帽子を被ったあの女子も居なくなっていた。
***
「のう、丸井」
うだるような暑さの中、木陰でドリンクボトルのストローを銜えたまま。
隣でフェンスに寄りかかっている丸井に視線を向けた。
「んあ?何だよい」
「放課後に校舎裏て行ったことあるか?」
告白スポットである校舎裏に、丸井なら何度か行ったことがあるだろう。
俺もこの間行ったのだけれど、その時に見かけた気になる存在。
「まあなー。それがどしたよ」
「変なヤツ居らんかったか?」
覚えているのは、制服姿に麦わら帽子、首のタオル。
軍手をした手で握るホース。
正面から顔を見たわけではない。
ただ余りにもおかしな格好をしているから気になっただけ。
ここ立海ではあまり見かけない、ちょっと異質な存在。
「は?どんなだよい」
「麦わら帽子かぶっちょるんじゃが、」
そこまで言って、止めた。
変なヤツと言ってピンとこないのであれば、見たことは無いのだろう。
アレを見て変だと思わないほうがおかしい。
「あー、何でもなか」
「ンだよ、気になるだろい」
口を尖らせて不満げな表情の丸井は軽く無視することにする。
ずず、とドリンクを啜りながら、今度また放課後に校舎裏へ行ってみようと思った。
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