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谷口さんはそれから数日、まだ風邪が治りきらないようでマスクをしてきていたけれど。週が変わったころに、やっときちんと風邪が治ったらしい。マスクはしていないし、顔色だっていい。いたって健康そうなその姿に、安心する。具合が悪そうにしていると見ているこっちが気が気でなくなる。

「風邪、よくなったんだね」
「…お陰様で」

相変わらずぶっきらぼうにそれだけを言って、前を向いてしまう。けれど今日は、すぐに何かを思い出したようにごそごそと机にかけた鞄の中をあさったかと思えば、手のひらほどの大きさの小さな紙袋を一つ取り出して。

「あげる」

手渡された、その小さな紙袋。まさか谷口さんから何かを貰えるだなんて思っても見なかった。嬉しい不意打ちに、どうやっても顔が緩んでしまう。

「ありがとう」
「どう、いたしまして」

お礼を言えばただ一言だけ返して机に突っ伏してしまったから、谷口さんがどんな表情をしていたのかは分からない。それでも、髪の隙間から覗く耳が赤いのは、俺の気のせいではないと思いたい。がさり、手の中でその紙袋が小さな音を立てる。中身が気になってそろりとテープを外して中を見れば、そこにあったのはシンプルなリストバンド。

「大事に使わせてもらうね」

リストバンドなんて、大して特別なものでもないというのに。彼女がくれたというだけで、全然価値が違ってくるように思う。今度から使わせてもらうことにしよう。







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