08
らしくない。顔を手で覆って、ため息をつく。本当に、俺らしくもない。
「精市、どうした。ため息なんてついて」
「蓮二」
いつの間に来たのだろう、屋上のフェンスに腕をつく俺の隣にはチームメイトの姿があった。
「どういうことだろうね、全く。谷口さんの姿を見てほっとするなんてさ」
安心したのだ。教室の、自分の机に伏せる谷口さんの姿を見て。まだ完治していないのか、マスクをしていたけれど。そして告げられた、あの言葉。ただお礼を言われただけなのに、あんなに嬉しいだなんて。
「恋か?」
聞こえてきた言葉にそちらを向けば、穏やかな表情で笑う蓮二の姿。からかうでもないその様子に、素直に言葉を受け取る。恋?まさかと否定したいところだけれど、反論の言葉が浮かばない。それどころか、妙に納得してしまう自分がいることに驚く。
「……参ったな」
空を仰ぐ。考えれば考えるほど、自分の気持ちがどんなものだか気付かされる。まさか言われるまで気付かないだなんて。
「否定の言葉が出てこないよ」
「相手が由佳ならば俺が言うことは何もないな。あんな性格をしている以外は、いたって普通だからな」
幼馴染である蓮二の言葉に小さく笑う。『あんな』とまで言われるような性格の彼女。まあ、普通とは言いがたい性格だけれど。そんなところも含め俺は彼女が好きなのだと思う。というか、あの性格だからこその彼女なのだろう。
「何言ってるの、蓮二。谷口さんはあの性格だからいいんじゃないか」
「……恋は盲目とはよく言ったものだな」
苦笑して言う蓮二に、笑みで返す。それぐらいじゃなきゃ、楽しくないだろう?
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