「昨日友人が二次元に行きたーいと教室のど真ん中で恥ずかしげもなく叫んだんだけどさ」
「そうなんだ」
「俺は、行けばって答えたんだけど」
「うん」
「きっと何も変わらないと思うんだ。いくら二次元に行けたとしてもきっと背景になるかならないかぐらいのモブキャラだろうし。イケメンキャラにちやほやされるのは逆ハーの夢主ぐらい天然かいい子じゃないといけないだろ?もしくは奇抜な髪色の絶世の美女」
 モブキャラ逆ハー夢主、これも友人の影響か普段使うことのない単語がすらすら出てくる自分に呆れる。
「黒髪美人もいると思うよ」
「そうだな。まあそういうことで二次元に行っても今と変わらず宿題予習復習は面倒くさいし朝起きるのは辛いし偶に友達と喧嘩するし、何一つメリットないよな二次元に行くことに」
「イケメンキャラ毎日見られるよ?」
「メリットそこだけ?」
「うん、それだけ。でも好きな人には堪らないでしょ」
「まあな。…それでな」
「今の前置きだったの?」
「うん」
「長いね」
「ウルサい。でな、その後友人がな」
「そのとても可愛い可愛い少しオタクで君が大好きな幼なじみさんが?」
「ウルサい。やっぱり二次元は二次元だから会えないよなあって呟いたわけよ」
「うん」
「そこで俺は尋ねた」
「何て?」
「二次元の人物は存在しないのかって」
「うん」
「友人は答えた、漫画の中と私の心の中に存在するって」
「私の心の中」
「笑うなよ」
「笑わないよ。で?」
「それで俺の存在がすごく不安になった」
「ぶっ飛んだね、話」
「まあな。俺達が二次元の存在じゃないって誰が決めた?俺はここに生きてるつもりだけど、先祖代々遺伝子を受け取って父さん母さんがいて俺は生まれて幼稚園小学校中学校と通ってきて、過去があって、流れがあって、今ここ高校の図書室でお前と話しているつもりだけど、違うかもしれない。少し前の一瞬で生まれた存在かもしれない。少しオタクな友人の言葉に疑問を持ち、他の友人に自分の考えを話す男子高校生として産み出された存在かもしれない」
 ぐちゃぐちゃだ。理解不能にも程がある。話す間も考えは膨らむばかりで、頭の中は混乱しっぱなしだった。
「うん」
 は、と目を見開く。友人が悩む様子もなく頷いたことに驚いた。
「否定しないんだな」
「分かんないからね。俺はというか俺達は教室から階段を下ってここに来たつもりだけど、図書室から一歩外に出たら俺達を作り出した人が何も考えてないってことで真っ暗かもしれない」
「それってすごく怖いな」
「そうだね」
「…羨ましいな」
 全て淡々と受け入れる友人の姿が羨ましく思えた。
「え?」
「俺、考え始めたら頭ん中もやもやするし答えでないからイライラするし。でもお前は」
「俺は、もう考えるのを止めたから」
 悪いと思わず謝りそうになる。友人の重ねられた言葉も薄く笑う表情も、痛々しかった。
「どうする?」
「なにが」
「これは楽だよ」
「俺は」
「うん」
「もう少し考えてみる」
「…そっか」

メビウスの輪の終点
 裏か、表か。
 なぞる手を止め輪を切った瞬間、痛みは消え、全てが消えた。


end
20110302
「メビウスの輪の終点」
海月の骨さまへ

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