マリクの背中に彫られた碑文をなぞっていたら腕をつかまれた
「なんだ?」
「…まだ痛む?」
「痛むと思うか?」
「だってこんな…」
目を泳がし言葉が続かなくなる私のまぶたに触れるだけのキスをして腕は解放される
それと同時に背中に強く腕をまわす
「今日のナマエは積極的だねぇ」
「ムード壊すなばか…」
マリクがこの儀式をうけていた六年前、私は一体何をしていたのだろう。
そう考えると今まで幸せだとすら思ってこなかった色々な事が急に愛しくなって、同時に想像不可能なマリクの半生に身体が震えた。
「……」
「泣いてるのかぁ?」
「…しらない」
ぐずっと鼻を啜ればクックッと笑うからむっとして背におでこをぐりぐりと押しあてる
「コイツがなきゃ俺は産まれもしなかったんだ。主人格様に感謝しなきゃなぁ」
そうだろ?ナマエ。と、続けたマリクにこらえていた私の涙腺は決壊した。
ほんとばかじゃないの、そんなしおらしい事言わないで、俺がこの体乗っ取ってやる位言いなさいよ、じゃないと、
「ナマエ」
泣きじゃくって心もなにもかもちぐはぐになった私の背をゆっくりなぜる手、
その手をひったくりほおずると額をマリクの胸板に押し付けられた。
ゆるりと押し倒されて、貪るみたいなキスを交わして、低くもう一度名を呼ばれ、そしてなにもわからなくなる
キスされたまぶたに残った違和感。
こんな風に私を喜ばせられるようになって欲しくなかった。めちゃくちゃに切り刻んでよ、壊してよ
そうじゃないと、まるで、もうすぐ、
殺してと言った私に残れと言ったマリクはこれまででいちばん残忍で残酷な顔つきで
こうして見詰めていたらマリクの事嫌いになれるかな。こんな酷い仕打ちをする彼を憎しみで埋め尽くしたい。嫌い、マリクなんて大嫌い
そう呪いながら睨んでいたら生きろ、と掠れた声が聞こえてきて私は絶望した。
(差し出された目が眩むほどのしあわせをうまく受け取れない)(あなたの腕の中のどうしようもないくらい幸福な私。そして、)
(20091019)