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いたいなぁ。さむいなぁ。



顔をあげれば一向に振り返る様子のない人がどんどんどんどん進んでいて、
一歩遅れてどんどんどんどん私も進む。

これハタから見たら一体何に見えるんだろう

海馬くんの表情はわからないけれど、私はきっとむくれてる。

いつもにこにこしていようって決めたはずだったのにいつからこうなったんだろう。
先週までの私ならきっと今だってふわふわ浮くように着いていっただろうに

堅くて凍りつくような天気にふさわしく今朝は雪がふり、油断して履いてきた靴は溶けだした氷水をすって指を刺す。

日が照りはじめた眩しいくらい透き通ったこの空気でさえぼんやりとしか視界に入らず、とぼとぼと歩いていたらようやく彼が振り向いた

いつの間にかずいぶんあいだが空いていて、彼が大股で戻ってくる間、あの人は一体どこの世界の人間なんだろうと、わけのわからない疑問がうかぶ。




「寒いか?」
「…ものすごく」
「フン、弱いな」
「……ね」

思わず気のない返事をしてしまう。どうして好きな人の前で可愛くいられないんだろう。微笑めばいいのになんで筋肉がいうことをきかないんだろう。こんなに好きなのに素直になれない自分が居て、それはきっと私が彼を好きな間は永遠に消えない呪いみたいなもので。っていうのはたとえば私たちが同極の磁石だったとして私が海馬くんに近付こうとしてもどんどん離れてっちゃう。で、海馬くんがむかって来ても私が逃げ出す。そんな風にすれ違ってだんだん距離がのびてのびてのびて、やっと異極になった時にはもうくっつく『目標物』が見えなくなってる。そんな呪い、


あ、駄目だ今日はもう帰りたいな。喉の奥の裏側があつい。



いきなり海馬くんの手のひらに頬を挟み込まれ顔を持ち上げられる。手のひらがびっくりするくらい、冷たい。

「ワハハハ!どうだ冷たいだろう!寒いか!?」
「……」


私の心はこんなにも様変わりしたというのに目の前の人はいつもの海馬くんで、この悪戯をしたかった為だけに(正しくは私を怒らせたい為だけ)こんな氷みたいに手を冷したのだろうか



「お、おい…」

いつの間にか無意識に涙ぐんでいたらしい私を見て自分が原因だと思い込んだのだろう。慌てて手を離す

「す、まん…そこまで冷たいとは…」
「ううん、ちがうの」
「いや、俺が悪かった。飲みを買ってこよう、少し待っていろ」







「いかないで、」

「……ナマエ?」



何故だかこのまま離れたら彼は帰ってこないような気がする。そうでなくてもそのまま私が勝手に帰ってしまう様な気がして腕を掴んだ


海馬くんは私を見つめたまま固まっているが、私は目を合わせられない。


「…いっこクイズ」
「……あ、あぁ。」
「ここに二つの磁石があります。どちらもマイナス極でどんなに近付こうとしても反りあう運命にあります。さてどうしたら二つはくっつくでしょう?か。」

私の心臓は少しだけはやくなる


「簡単だ。どちらかをひっくり返してやるまでだ」

「……それ答えになってないよ」

「ナマエ」

「何…?」

「俺は運命などという腑抜け者の迷信は断じて信じん。」

前にもそう言った筈だ。と、刺々しく言われ、思わず見上げた視線が重なる。


「今日の貴様は…」
「何?」
「いや、なんでもない」




「ねぇ、海馬くん」
「…なんだ?」
「私、いつも海馬くんが好き。」











自販機の前から走ってくる海馬くんと引き合うように私もかけよる。
手渡されたそれは磁気を出さないのにまるで磁石のようで、つよくかたく握りしめた。

















(あっという間にひっくり返されちゃったな)
(20091026)


 
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