▼浮かされる

表遊戯×バクラ
現代パラレルで確執とか一切なし。
二心二体。武藤家はアテム(兄)と遊戯(弟)で、ばくら家は(出てこないけど)盗賊王(長男)ばくばく(双子)な設定。
バクラさんが乙女仕様。
お互い両思いなのか片思いなのかよく分からない非常にムズムズした甘ったるい感じ。
















蝉の声がどこか遠くから聞こえる夏休みの教室。補習用のプリントとの睨みあいにも疲れて、机に突っ伏してボク達はうだるような暑さに耐えていた。
最初は僅かにひんやりとしていた机も、今ではボクの熱や汗を吸って生ぬるく不快な肌触りに変わっている。かといって、体を起こす気力も、プリントの問題を解く気力もない。
先生はプリントを配って職員室へとんぼ帰り、一緒に補習を受けるはずの城之内くんと本田くんはジュースを買いに行くと言ったきり帰ってこなくて、アテムは着いていくと騒いでいたけど、海馬くんに誘われたM&Wの大会に参加することが決まっていたから何とか説得して大会に向かわせた。杏子や獏良くんは頭がいいから、そもそも補習に呼ばれてない。

そんなわけで、何故かボクとバクラくんはこの蒸し暑く不快な教室に二人きりで取り残されてしまったのだ。しかも、何故かボクの左隣の席を陣取っている。
普段の授業も真面目に受けているとは言い難いバクラくんだが、テストの点はそれなりに良かったはずだ。単位が足りなかったのだろうか、先生に呼ばれたのだろうか。
いずれにしても、普段そこまで話したこともないし、何よりこれから話す内容も見つからないのに隣同士とは、気まずい。
アテムの方とは割と仲が良いようで、憎まれ口を叩きあいながらも一緒に居るところをよく見る。けれどボクにはさして興味も持たれていないらしく、あまり込み入った話もしないし冗談を言い合うようなこともない。たまにあいさつを交わしたり、学校の事務的な連絡をする程度だ。
当の本人はボクのことなど関係ないといった様子で、ぐったりと机に覆いかぶさるようにしながら、時折シャーペンをだるそうに動かしていた。
クーラーなんて大層なものは無いし、窓を開けていても涼しい風なんてめったに入ってこない。熱く湿った空気が流れ込んでくるだけだ。
僕らを嘲笑うかのようにギラギラと熱と光を振りまく太陽も、ミンミンとうるさく鳴き続ける蝉も憎たらしい。

何となくバクラくんの方に目線を向けると、暑さに耐えきれないと言うようにしきりに髪をかきあげていた。何だか可哀想になってきて、何気なく、「髪、縛れば?」なんて助言をしたら物凄い勢いで睨まれる。
その人を殺せそうな目線に身を縮めながら、あはは…、と乾いた笑いを返せば、バクラくんはばつが悪そうな顔をして、出来ねぇんだよ、と小さく呟いた。そんな小さな声も、二人きりの静かな教室では意外と大きく響く。
何でもそつなくこなすバクラくんが、自分の髪は結べないなんてギャップが少しおかしくて、へにゃりと笑ったような、力が抜けたような、自分でもよくわからない表情になる。
予想通りと言うべきか、やっぱり睨まれた。けれどさっきよりは力のないものだった。暑さが相当堪えているのだろう。
心なしか、いつも立っているウサギのようなくせっ毛も萎れているようにも見える。
バクラ君は机に突っ伏したまま、あー、とか、うー、とか唸っていて、雪のように白いから、このまま溶けてしまいそうだ。
だから、「結ぼうか?」なんてボクが口走ってしまったのも、その言葉にしばらくぼんやりと目線を彷徨わせながらも「ん」とヘアゴムを差し出してきたバクラくんの顔がやたら赤かったのも、いつもじゃ考えられないような弱弱しい態度にドキリとしてしまったのも、僅かに触れた指先が熱を持ったのも、暑さのせいなのだ。

「あの、上手く出来なかったらごめんね」

そう断ってからバクラくんの白い髪をまとめて持ち上げると、それよりさらに白いうなじに汗が伝うのが見えて、思わず目をそらす。
いつもは髪に隠されているそれや、丸い可愛らしい耳に目が釘付けになりそうなのを堪えて、少し湿った髪をまとめ上げる。
考えれば、身長の低いボクがバクラくんの後頭部をこんなに間近で見れるなんてめったにないことかもしれない。悔しいけれど、バクラくんはボクより頭一つ分も二つ分も大きいのだ。
何となく感動して、思わず手を止めてまとめ上げた髪やつむじを凝視していると、「何考えてんだよ」と鋭い声が飛んでくる。とっさに「なんでもない!」と返して手を動かしたが、不服そうに鼻を鳴らされた。
鋭い刃物のような性格と目付きのバクラくんとは反対に、髪の毛はもふもふと綿のように柔らかくて、そのギャップがまた愛らしいと思ってしまった。もちろん口には出さずに、一人でほくそ笑む。本人に言ったら、間違いなく窓から投げ飛ばされていただろう。
髪の手触りを確かめながら、本当にバクラくんの髪を結んでるんだな、と夢でも見ている気分になる。また手を止めたら今度はシャーペンが飛んできそうな雰囲気だったので、手ぐしでふわりと広がる髪を軽く整えてから一気に結ぶ。
耳と同じくらいの高さの、シンプルなポニーテールが完成した。風を受けて踊る毛先は、さっきより断然涼しそうに見える。

「はい、出来たよ」

「ん、あぁ」

完成の意味を込めて両肩をポン、と叩けば、バクラくんの金の瞳が力なくこちらを見た。
目尻がほんのり赤く色づいていて、それにまたドキリとする。
ふー、と彼にしては珍しい大きな溜息をつきながら、椅子にもたれかかってだらりと四肢を投げ出した。
肩越しにちらりと見えたプリントは、もうほとんど埋まっていた。

「あの、珍しいね、バクラくん真面目に補習なんて」

口に出してから失礼なことを言ってしまったことに気付いて、慌てて「あの、そういう意味じゃなくて」と意味が分からない言い訳をしたが、特に気にする様子もなくバクラくんはだるそうに口を開いた。

「了によ、放り出された。授業日数が足りてねぇから補習受けて来いって」

このクソあちい中放り出されるとかありえねえ、家入れないとか鬼だろ、普段オレ様がどんだけしてやってると思ってんだ、と獏良くんへの不満の声が続く。放り出されても適当に、それこそクーラーのきいたファミレスででも時間を潰せばいいだろうに、真面目に学校に来る素直さが何とも力関係を見せつけられているようだ。
その素直さと獏良くんのおかげで、バクラくんの新しい一面が見れたわけだ。密かに心の中で感謝をしながらうんうんと相槌を打っていると、何笑ってんだよと怒られた。
けれど、その顔にはほんの少しだけ、いつもの冷ややかな笑みではなく、楽しそうな笑顔が浮かんでいた。
ボクにそんな顔を見せてくれたのが嬉しくてまた笑ったら、肘で小突かれる。少し不機嫌そうな顔を作ってはいるが、本気で怒っているわけではないのが分かる。
ふぅ、と一息ついたところで、バクラくんが軽く頭を振ってみたり、シャツの襟をいじったりと、落ち付かない様子で口を開く。

「首がスースーするな、落ち着かねぇ」

涼しいけどな、とうなじを撫でながらバクラくんが呟く。

「バクラくん、髪長いもんね。いつもの髪型もいいけど、その髪型も似合うよ」

「じゃあ、今度から遊戯、お前が結べよ。お前の手の感じ、好きだぜ」

拗ねたような、甘えるような表情で窺うようにバクラくんが見上げてくる。
なんでボクに、とか、獏良くんやお兄さんに頼むのは、とか、でも何だか特別みたいだな、とか、そういえば好きって、とか、ぐるぐると空回りした思考の末、顔の熱はどんどん上がっていく。さんざん変えた挙句、出てきたのは「え」という間抜けな声だった。
バクラくんはそんな僕の反応を見て、しまったという顔をしてから顔を赤くした。
その顔のまま口を開いたり閉じたりすると、キッとボクのことを睨んで、シャーペンを握るとガリガリというよりガツガツとプリントに回答を書きこんでく。

「へぶっ」

ものの数秒で書き終わったプリントがボクの顔面に勢いよく押し付けられ、さっきの何倍も間抜けな声を出す。
「それ出しとけ!」と怒鳴って立ち上がろうとしたバクラ君の腕を掴んで引き寄せる。バランスを崩して椅子に再度腰掛ける羽目になった彼のうなじが、日差しを受けてきらりと光る。
その眩しさにくらくらしながらも、僕の口からは勝手に言葉が飛び出していた。

「一緒にご飯食べに行こう!」

訳が分からないというような、混乱交じりの顔で「はぁ!?」と返されるが、バクラくんのプリントを持ったまま自分の席に戻って、急いで空欄に答えを写していく。
書き終えたそのままの勢いで荷物を詰め込んだ鞄を掴んで、椅子に座ったまま呆然とこちらを見ているバクラくんの手もついでに掴んで、学校を飛び出した。
下駄箱で頭に疑問符を浮かべるバクラ君を促してほぼ無理矢理に靴を履かせ、また手を繋いで走りだす。

「どこ行くんだよ!」

「だからご飯!食べたいものある!?」

「なんでも、っていうか手離せよ!」

「じゃあバーガーキング行こう!新商品がうまそうでさ!」

校門を抜け、手をつないだまま早歩きで店に向かう。
太陽に焼かれたアスファルトが蜃気楼を作って、あまりの熱と眩しさに視界がくらりと揺れる。
生ぬるい空気をかき分けるようにして進めば、吹き抜ける風が心地よく汗ばんだ体の熱をさらっていく。荒い息を吐くたびに喉が渇き、体が重くなるけれど、はやる気持ちが抑えられなくて歩くペースは変わらない。
そのうちに、バクラくんの指にも少し力が込められる。ギュッと握られた手がなんだか嬉しくて振り返って笑えば、照れ笑いにも似た表情で返された。視界の端でバクラくんのポニーテールが揺れる。

顔と握った手が熱いのも、バクラ君の機嫌がやたらといいのも、こんな行動をとってしまったのも、全部この暑さのせいだ。
そういうことに、しておこう。

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〜ゆにこさんにイラスト描いていただきました!こちら!


長いそして甘い。遊バク増えろの一心で書いたら珍しくラブラブきゅんきゅんな甘い話(当サイト比)だったので、あまりの恥ずかしさにしばらく封印していました。読み返した今でも蜂蜜とか砂糖とかザラメとか出せる気がします。
遊戯さんはバクラを幸せにできる可能性を持った数少ない内の一人だと勝手に思ってるので、遊バクには普通に青春して楽しんでほしいです。これは若干普通じゃない気がするけど普通と言い張ります。

ちなみにこの後、遊戯の分のコーラ片手に帰ってきた城之内君と本田君が無人になった教室で机の上のプリントを見て呆然と立ち尽くし、バーキンでは店内の涼しさで頭冷えた二人が慌てて手を離し、会計前にオレ様が払う悪いよボクがオレ様がボクがと揉めに揉めて最終的に割り勘になり、やっと落ち着いてのんびりデート中に相棒会いたさに大会を驚異の勢いで勝ちぬき優勝した王様が乗り込んできて大変なことになる感じです。(続かない)
獏良君は家で盗賊王と一緒にそうめんすすってます。


2013.07.21



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