▼満たされない

相変わらず報われない系王盗
相変わらず女々しい盗賊王
相変わらず暗い






















“どれだけ肉を食らおうと、酒を飲もうと、黄金をこの身に纏っても、どこかに開いた孔から、全て漏れていってしまうかのように、充実感もクソもない。どうにもこうにも、満たされないんだ”

そう静かに、語りかけるように呟いて、盗賊は寝台に横たわる王の腹に跨る。
暖かな光を帯びた紅い瞳と、冷たい殺意に燃える蒼い瞳がかち合い、空中で視線を絡ませながら、徐々にその距離を詰めていく。
お互いの顔が目と鼻の先になると、盗賊は王の顔をやんわりと両手で包む。
盗賊は興奮を抑えきれないかのように熱い溜息を吐き、血のように赤い舌をちらりと覗かせながら唇を舐める。薄暗い中、燭台の炎の揺らめきを受けたその仕草は酷く淫猥に映る。
そして、恍惚に細められていた目が憎悪に歪み、苦しげな、それでも熱の籠った声色で囁いた。

「だから王サマ、あんたの首が欲しい。あんたの喉を切り裂いて、吹き出る血を浴びて、落ちた首を見たときに、オレは、満たされる気がするんだ」

殺意と羨望の色に染まった瞳が、月明かりを受けて獣のようにぎらつく。
それを王はどこか愁いを帯びた眼差しで眺めながら、盗賊の髪に手を差し込む。
乱雑に切られた硬質な髪が王の手をくすぐり、その感覚を愛しく思いながらそのまま慈しむように髪をまさぐる。
余裕の頬笑みを浮かべながらも目に挑戦的な光を宿した王は、盗賊に語りかける。

「欲しいのならくれてやる。だが、タダでやるわけにはいかないな」

王は名残惜しそうにしながらも盗賊の髪から手を引いて、頬に刻まれた傷痕をそっと撫でる。
その感覚にびくりと体を震わせた盗賊は、不本意そうに目を吊り上げながらもその手を拒むことはない。顔は顰められたまま、それでも徐々に、強張っていた身体からは力が抜けていく。

「勝負をしよう。オレが負けたら、首でもなんでもくれてやるし、どんなことでもしてやる。好きにすればいい」

待ち焦がれたその言葉にも盗賊は表情を輝かせることもなく、それどころか何かを堪えるように歯を食いしばり、眉間にしわを寄せて、険しい瞳で王を睨む。

「だから、そんな顔をするな」

王も盗賊の顔を見て、顔を辛そうに歪める。

王の瞳に映るその表情は、泣く前の子供のそれによく似ていた。



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(当サイト的)いつもの王盗。
ほのぼのばくらずを書いた反動で暗いのしか書けない症候群。

盗賊は本当は王様の首が欲しいわけじゃなくて、王様そのものが欲しいんです。
それをなんとなく分かってるけど伝え方と言うか告白の仕方が分からない王様。そしてそれを受けて見捨てられたような疎外感を覚えてどうしたらいいか分からない盗賊。報われない。

もっと、色気のある文章が書きたいです。


2013.07.15



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