▼なんで君だったんだろうね

若干バク獏寄り?
闇のRPG後、暗い。

























心の部屋の中、いつからかあった深く暗く、冷たい闇。
ずるずると這いずって、底気味悪く床や壁を伝い、ボクの部屋を汚していった、闇。
ずっと、あいつが作ったものだと思っていた。千年リングを使って、ボクの心に巣食って、ついでにこの闇を生み出したに違いないと。
けれど、前に問い詰めたとき、あいつは「この闇は元からあったのさ、オレ様はちょっと手助けしただけだ」なんて、おどけたように腕を広げてけらけらと笑った。
違うと否定してもにやにやと、いつもの不敵な笑みと試すような目でボクを眺めるだけだった。
あのときはすごく頭にきたし、自分の闇と聞いて泣きそうになったけど、冷静な頭で考えられる今になって思い返せば、それも当たっていたのかもしれない。
現に、お前が消えていく今も、闇は消えない。
四方からじっとこちらの様子をうかがって、深淵に引きずり込もうと手招きをしている。
そして、その闇に食われるのは。

「バクラ、呼んでるよ」

冷え切った頭と目でバクラを見下ろす。
後悔や憎悪や苦しみやらをぐちゃぐちゃに混ぜたような複雑な表情を浮かべながら、それでも安らかにも見える顔で、いつもの憎まれ口も、不遜な態度もない。
ぐったりと力なく横たわる姿は死体と言うには綺麗すぎて、出来の良い人形のようだった。
ボクの身体だから当たり前だけれど、目を閉じればボクと見分けがつかない。鏡を見ている気分になる。
ここに倒れているのは、バクラなのか、それとも、ボク自身なのか。

究極の闇のゲームとやらで、もう一人の遊戯くん(アテムくんと呼んだ方がいいのだろうか)、彼に無様に敗北したあいつは、今まさにボクの心から消えていく途中だった。
地面からはタールのようにぬめりとした気味の悪い闇が、ごぽりごぽりと波打つ。
それが少しずつ湧きあがり、溢れ出て、バクラの体を蝕んでいく。
少しずつ飲み込まれる身体に、胸をずきりと刺されるような、悲しみに似た感覚に陥る。
その痛みに少しばかり混乱しながらも、バクラの隣にしゃがむ。

「バクラ、本当はね」

苦しさか寂しさか、よく分からない感情が声を震わせるが、喉から絞り出すようにして続ける。

「お前のこと、嫌いじゃなかったよ」

聞こえることはないと知っていても、語りかける声は止まらない。

「ボクの体を傷付けたこともあったし、遊戯くんたちを酷い目に遭わせたりもしたけど、でも、心の中で哀しそうな目をしてるお前を見たとき、三千年前のことを知ったとき、なんだか憎めなくなったんだ。だから、お前が負けるって分かっていても、お前のためにジオラマを作り上げたんだ。勝っちゃいけないことも、勝てる訳が無いことも、本当は、分かってたんだよ。全部、分かってたんだ」

震えを抑えていくうちに、自分でも驚くほどに穏やかな声が出た。
これは、自嘲か、懺悔か。
バクラが聞いていたら、知ったような口を利くんじゃねぇ、なんて怒るんだろうか。殴りかかってくるだろうか。
それでもいい。それでもいいから、ただ、もう一度起きてほしかった。
怒鳴られても、嘲笑われても、傷つけられても、バクラと会話がしたかった。

「どうして、負けるのはお前だったんだろうね」

理由は知ってるけど、と声には出さずに心の中で付け足して震える口を開く。

「お前は、強すぎたんだよ。昔から、ずっと」

バクラが、世界から、僕の心から消えていく。
闇のRPGで、砂となって消えた盗賊王――バクラの一部が脳裏によぎる。
あの悲痛な疑問の表情は、最後まで真実を知らないままだった。
自分のその強さに殺されたのだという、真実を。

バクラの手を握ろうと伸ばした手が、掴むはずのバクラの手をするりとすり抜けて闇に浸かる。
慌てて腕を引き抜けば、ひときわ大きく波打った闇がバクラをずるりと飲み込んだ。
飲み込まれる瞬間にちらりと見えたバクラの口元は、ほんの少し笑っていた気がした。
それが嘲りなのか、強がりなのか、何か他の感情だったのか、それを判別することもできずに、咀嚼するように蠢いている闇を見つめることしかできなかった。
バクラを飲み込んだ闇は、そのままずるずると床にもぐりこんで、跡形もなく消えてしまう。

真っ白な、がらんとした空間にひとり取り残される。先程の感情の正体が分かった気がした。これはきっと、喪失感、というものなんだろう。
それを認識した途端、今度は急に悲しみがこみ上げてきて、さっきまでバクラの身体があった場所を抱え込むようにしてわんわん泣いた。

砂と闇に思いを馳せながら溢れた涙は、何もない空間に落ちて、はじけただけだった。



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ついったーで出たお題で書いていたやつのサルベージ第二弾。タイトルもそのままお借りしました。
宿主にとってバクラは居れば鬱陶しいけど、消えて清々するってわけではなく、居なければ寂しいみたいなめんどくさい存在です(個人的に)
W遊戯は心の部屋でちょくちょく談笑してますが、ばくばくはそれが皆無なのでしょぼんってなります。
二次創作的には談笑もアリだと思うのですが、私にはたまに迷い込んだ宿主がバクラに辛辣な言葉吐かれて追い出されるくらいしか想像できなくてつらいです。



裏テーマは自分の闇を飼いならす宿主サマだったりします。


2013.06.24



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