▼問答

「あァ、王よ。なにを探していらっしゃるのか」

王と呼ばれた少年は、金の耳飾りを、鮮やかな貝紫色のマントを揺らしながら振り返ります。冷たい石に囲まれた迷宮の中、不意に現れた襤褸切れを纏った人影の問いに答えるべく。

「男を探している。年の頃は俺と同じくらいだと記憶しているのだが、それ以外は覚えていないんだ」

王の答えになるほど、と一つ頷くと、褪せた朱の襤褸を被り直し、姿の割には存外幼い声で男が問いました。

「その男は、銀色の髪を持っていなかったか」

「そういえば、月の下で鈍く光る色を憶えている」

王が男を見たのは、いつだって夜闇の中だったと思い出します。月に照らされて浮き上がった、剥き身の刃のような寒々しさを湛えた姿。その脆い輝きをもった銀の髪を。

「その男は、紫色の瞳を持っていなかったか」

「そうだ、何度となく、その鋭い瞳を向けられた」

他の感情など一つも混じらない、殺意と憎悪を織り込んで暗く光る紫の瞳。真っ直ぐに向けられる感情は、王にとって忘れ難いものでした。

「その男は、顔に傷を作っていなかったか」

「あぁ、古い傷が、やつれた頬を大きく走り抜けていた」

潤いのない皮膚を渡る大きな傷痕は、男の憎しみの象徴でもあり、彼の王が残した罪の記録でもありました。思えば、痛々しいその痕を、王はまじまじと見たことがありませんでした。無意識に避けていたのかもしれないと、脈打つはずのない心臓が痛む錯覚を覚えました。

男は王の複雑そうな表情を見てくつりと笑みをこぼすと、襤褸に手を掛けました。

「その男は、こんな顔をしていなかったか?」

はらり落ちたる布の下から表れたその相貌は、先程までの問いの姿を煮詰めて形作ったそのものでした。輝く銀の髪も、闇を織り交ぜた紫の瞳も、頬を渡る傷も、そっくりそのままでした。

「……そうだ、お前の姿形は、彼奴そのものだ」

男はにんまりと、邪悪をたっぷりと含んだ笑みを返します。どこか得意げな様子でもありました。ひたひたと、その姿を見せつけるように王に近付いていきます。しかし王は動じずに、嘗て盗賊だったものを一瞥してこう言いました。

「だが、中身は随分変わってしまったのだな」

哀しそうに王が呟けば、余裕をたっぷりもたせた笑みは崩れ、と同時に体も崩れ去り、あとに残るはただの砂。その砂さえも、王が手を伸ばす前にはらはらと消えてしまいましたとさ。


2023.03.18

記憶の迷宮にて。
再掲です。



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